一方の「国家が互いに使う」「戦略的なウソ」の典型は、早や10カ月になるロシアのウクライナ侵略で国際社会が日々目にしている。この戦争の舞台は専らウクライナ国土なのだが、むしろ被害者のロシアが防衛戦争をしているとの論がある。また、ウクライナは民間施設がロシアのミサイルで攻撃されたと主張するが、ロシアは民家施設を隠れ蓑にした軍事施設を攻撃したのだという。
これらはどちらか一方が「やりました」と自白しない限り真相は藪の中、傍からは検証のしようがない。が、明らかなこともいくつかあり、例えばウクライナ側は、国土の荒廃に加え人口の4分1に当たる約1千万人が国外に避難し、民間人や軍人が万単位で死んでいる一方、ロシア側は国土の被害は皆無なうえ、これも万単位といわれる死者も、そのすべてが軍人であることなど。
しかし「偽旗作戦」と称する、被害者が自らを攻撃する自作自演もある。よってウクライナ大橋の爆破にしても、ウクライナがやった結果としてロシアが被害を被ったから、普通ならウクライナがやったとなるが、仮にロシアの「偽旗作戦」ならそうはならない。先般のポーランド爆撃などもその一種か。
先述の「戦略的隠蔽」をミアシャイマーは、自国国民と同時に他国も騙そうとするものでもあり、リーダーはこれを使って、注目を集め易くしたり、対応が必要な難しい質問を惹起しそうな国際問題に対処したりすると述べる。すなわち、それが「国益に適う」と考えてウソをつくのだとし、キューバ危機の際のケネディの対応を例示する。
ケネディは、キューバからミサイルを撤去する代わりに、トルコの米国ミサイルを撤去せよとのフルシチョフの対案を飲んだが、それを秘匿するようソ連に要望し、合意した。公開すれば米国民やNATOとの関係にダメージが及ぶと考えてのことだった。ミアシャイマーはこれを、二つの核保有国が衝突を回避するための「高貴なウソ」と書いている。
ウクライナでの核使用が取り沙汰される中、米露首脳には、第二の核被害国を作るのではなく、「高貴なウソ」をついてでもそれを回避し、歴史に名を刻む器量を望みたい。その「ウソ」なら、プーチンが愛する柔道のかつての金メダリストが、家族を安心させるためについた「やさしい嘘」のように許される。