「ロス&ダメージ」への補償:途上国支援基金を設立へ
今回のCOPで注目すべきは、途上国が長年求めつつも先進国の抵抗で具体化されてこなかった「ロス&ダメージ」への補償のための基金設立について、会期を1日延長する厳しい交渉の末、最終的に合意し、来年のCOP28までにその具体的な建付けや規模等について案をまとめて合意を目指す、という作業計画も設定されたことである。
途上国はこの「気候変動枠組条約」の会議の場において、自分たちは先進国が過去に排出した温室効果ガスによって引き起こされている気候変動による自然災害の被害者であり、フィリピンやパキスタンで発生した深刻な水害や、アフリカの干ばつによる飢饉などについて、「加害者」である先進国が賠償金を支払うべきだと、一貫して主張してきた。
これは昨年のグラスゴーCOP26で英国が展開した、世界全体が気温上昇を1.5℃以内に収めるという目標に野心度を引き上げなければ、今にも地球が破滅して人類の生存の危機を招く、といったキャンペーン(気候変動と今起きている自然災害の因果関係はIPCC報告書などでも必ずしも科学的に立証されていない)のブーメラン効果でもある。
未だ貧しく社会インフラも整わない途上国では、既にそうした気候変動による被害が顕在化しており、先進国が主張するとおり、温室効果ガスがそれを引き起こしているのだとすると、その責任は産業革命以来大量の温室効果ガスを排出しながら経済発展を進める一方で、温暖化に加担してきた先進国が負うべきだ・・というわけである。
従来EUや米国など主要な先進国は、そうした無制限な損害賠償責任を負うことになりかねない「ロス&ダメージ」への資金拠出については否定し、あくまで自国にもメリットのある途上国の削減活動への資金協力と、途上国の経済開発とその裨益にもつながる適応分野への資金協力の範囲に資金問題をとどめる戦略をとってきたのだが、グラスゴーに向けて展開された1.5℃目標への野心度引き上げを促す、終末論的なレトリックを逆手にとられて、「だったら汚染者である先進国が賠償責任を負うべき」という途上国のロジックに説得力を与えることになったのである。
そうした中でも、EUは「ロス&ダメージ」での譲歩と引き換えに途上国、中でも中国やインドなどの新興国の削減野心度の1.5℃目標への引き上げ(2025年排出ピークアウトや石炭火力の段階的廃止等)のコミットを取ろうと、交渉に躍起になったようであるが、結局パリ協定の合意内容を大きく逸脱する後者が受け入れられることはなかった。
ウクライナ紛争が国際秩序に亀裂をもたらす中、COP27での交渉決裂が国際的な気候変動対策の取り組みへのモーメンタムを失わせることを恐れたEUは、結局「ロス&ダメージ」の補償のための新たな資金による基金の設立に妥協し、そのような資金拠出が議会に阻まれることが必至の米国も、最後まで抵抗を示したようだが、最終的にCOP決裂の批判を浴びることを嫌って妥協せざるをえなかったというのが、合意の背景と思われる。