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巡礼と胎道
巡礼を繰り返すことで「何度も生まれ変わる」
巡礼と胎道

古来から、人は巡礼を通じて「生まれ変わる」ことができるといわれています。白い装束を身にまとい、巡礼道という空間に入ることで、一旦「死の世界」に入ると考えられています。巡礼道とは、謂わばお母さんのお腹にある「胎道」なのでしょう。巡礼道という胎道を歩くことにより、今までのしがらみや、悲しみ、喪失などの負の感情をすべて吐き出すことができ、88ヶ所すべての霊場を巡り終える「結願」を達成したときには、再び生まれ変わることができるのかもしれません。
「巡礼と胎道」という考え方は、日本にもいくつか事例があります。四国においては、高知県室戸にある、御厨人窟(みくろど)という洞窟がその一つです。その洞窟は浄土への入り口で、洞窟が母親の胎内を表しているといわれています。

また、沖縄に亀甲墓(かめこうばか)と呼ばれる、亀の甲羅に似ている形をしたお墓の様式があります。この変わった形は女性の子宮を模したものと言われており、人間は母親の胎内から生まれ、死ぬと再び帰っていくという「母体回帰」の思想が表れていると考えられます。台湾やサハリンのアイヌ民族にも、これに似たお墓の習慣があるそうです。
日本には「死んでも再び生まれ変わってくる」という輪廻転生の思想があります。これを心のどこかに刻み込んでおくことも、悲しみや喪失で辛い思いをしている人たちの精神的な支えになるのではないでしょうか。
巡礼を繰り返すことで「何度も生まれ変わる」
大学院の研究で四国に現地調査した際、1番の霊山寺(徳島県)、51番石手寺(愛媛県)、88番大窪寺(香川県)を訪れました。
88番の大窪寺で、88ヶ所をすべて巡り、「結願」を達成した人々に「次の巡礼地は、どこへ行きたいですか?」というアンケート調査を行いました。すると、お礼参りとして弘法大師ゆかりの和歌山県の高野山や西国三十三ヶ所をあげる人もいたのですが、多くの人たちが「再び四国を巡礼したい」と答えたのです。
何度も四国八十八ヶ所を巡り回ることによって、自分に足りないものを見つけたり、反省をしたり、人生を再構築したりと、生まれ変わりを繰り返したいという願望の表れなのではないでしょうか。
