進まない廃棄等費用を積立て
そのため、認定事業者には、基本的には運転開始後20年が経過した後に備えて、廃棄等費用を積立てることが期待されている。ただし、従来はその実施率が低かったために、2018年4月には、事業用太陽光発電設備(10kW以上)の廃棄等費用の積立てを「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」(資源エネルギー庁)により遵守事項とし、事業計画策定時には廃棄等費用の算定額とその積立て計画の記載が求められるに至った。
また、同年7月から再エネ特措法施行規則に基づく定期報告において、運転開始後に積立ての進捗状況を報告することを義務化した。しかし、積立ての水準や時期は事業者の判断に委ねられていたこともあり、2019年1月末時点でも、積立ての実施率は低い状況にあった。
3基の解体費用が50億円そのため、2021年に発生した福島県沖合で3基の洋上風力発電設備の撤去事業に国費が50億円もかかったという事実に基づき、建造だけではなく、解体・廃棄までの目配りを強調したしたことがある(金子、2022:20)。陸上風力発電施設の撤去費用でも、上越市の3基の撤去費用が1億5千万円だという記事も紹介した(同上:45)。この両者はいずれも全額税金が使われている。
しかしたとえば外資系の大手であるカナディアン・ソーラーは、日本全国にすでに25の太陽光発電所を持ち、パネル出力合計は183.9MW(18万3900kW)となっている(カナディアン・ソーラー『第9期試算運用報告』2021年)。そして『廃棄ガイドライン』に沿って、もっとも早い時期の積み立て開始を2022年7月1日からとして、順次積み立てを行うとある(同上:20)。このような大手の場合は「廃棄等費用」の積み立てがまもなく開始されるが、中小零細企業ではどうだろうか。
電力に関しては、生産者にとって交換価値が重要であるが、消費者にとっては使用価値に重みがある。何よりも安全で高品質の電力の安定した社会的供給こそが、国民全体の使用価値を高めるはずである。
「使用価値」と「交換価値」による「脱炭素社会」づくりの再点検をしようこれまでの「経済優先」が交換価値を、「生活優先」が使用価値をそれぞれ重視してきた歴史を見ると、自然に優しいといいながらも自然破壊を必然化する太陽光発電や風力発電は、交換価値も使用価値も低いままであり続ける。
パーソンズの用語を使えば、とりわけ見てくれの「表出性」(expressive)に特化した「再エネ」は使用価値に難点があるとともに高価格だから、「道具性」(instrumental)に優れた原発や火発との機能的等価交換性は低くなる。そのために表出的な「再エネ」は依然として未来の不安定な希望的観測でしかありえない。もちろん2050年の「脱炭素」の一環として、2030年に二酸化炭素の46%削減達成などは夢物語であろう。
自然に優しくない「再エネ」私が危惧するのは、「使用価値」は原発や火発に比べられないほど乏しいのに、陸上風力も洋上風力も地球温暖化対策、原発の廃止、火力発電の縮小という大義名分を掲げて、「再エネ」事業者や運動家は税金による「交換価値」の極大化を狙っている点にある。
呼応する日本政府でも夏場冬場の停電危険性を前提にしてまでも、2020年度に「再エネ」や水素の活用など脱炭素の技術革新のために2兆円の基金を創設して、動きを仕掛けてきた。GXとしてイノベーションの基盤づくりは構わないが、目標とする「脱炭素社会」づくりは科学的に見て正しい目標なのか。
洋上風力発電機や陸上風力発電機の撤去が教えたように、「自然に優しい」を謳いながら、巨額の税金を使い、自然破壊を進めていることへの国民的な不安に応えられるか。
治山治水の充実をなぜなら、「生態系は機能主義的で、工学的に操作され、技術主義的である。それは私有化され、商業化され、貨幣化されており、使用価値の領有と生産とを通じて交換価値(とりわけ賃貸料(レン)/(/)使用料(ト))の産出極大化を指向している」(ハーヴェイ、2014=2017:343)からである。発電量や安定性で火発や原発にはかなり劣る「再エネ」の「使用価値」は高くはない。
むしろ20年前に比べて半額の1兆円に下げられた「治水事業費」予算を2倍に復活して、自然を活かす「防災投資」の方の価値が高い。その意味でも、「交換価値」が高い公共事業がもつ「使用価値」の見直しこそが急務であろう。
リヴィングストンの慧眼かつてリヴィングストンは生態系を破壊する方法として、①単純化、②複雑さを減少させる、③構成要素の相互依存の上に維持されている均衡を短絡させる、と指摘したことがある(リヴィングストン、1973=1992:274)。「脱炭素社会」づくりの手段として、特定した海域や特定区画や海底を洋上風力発電のみに使うことは生態系の破壊であり、それは自然に優しいことでもない。
自然生態系は複雑であり、生物多様性にみられるように、多様化を是としてきた。それによって、恒常性も維持してきたので、人間も含めた生物多様性の重要性がいわれはじめて久しい。その点からも、生態系の人為的単純化は自然法則と矛盾すると考えられる。「ある生態系が存在していた期間が長いほど、多様化、複雑化、したがって安定化のための時間があったことになる」(同上:46)。
数千年の生態系を壊して、火力発電や原発の代わりに数年間の工事により、一定面積の海域や海底を洋上風力発電のために使うという「再エネ」は、果たして自然に優しいのか。しかもその「再エネ」は原発・火発一基の発電量にも及ばない。25年後の高齢化率35%時代には大量の残骸が陸上や洋上海域に溢れて、膨大な撤去費用がかさむことも予見される。
リヴィングストンが引用したバイロンの言葉、「人の支配は海辺で止まり、その先の大海についてはすべてが海自体の成すことだ」(同上:47)あたりまでしか、現在の世界人類がもちうる想像力は届かないのではないか。
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【参照文献】
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