高シェアのトースターや扇風機
とはいえ、評価が低いのは一部の製品のみ。トースターや扇風機などは一定の評価を得ている。シェアは、トースターは5.3%、扇風機は1.3%(※)。同社の製品価格が市場平均の2~10倍であることを考えると、このシェアは驚異的と言える。
なぜ、こうも評価が異なるのか。「トースターや扇風機」と「掃除機やスマートフォン」との違いは何か。

BALMUDA The Toaster筆者撮影
それは製品の成熟度だ。トースターや扇風機は、いわば「枯れた技術」だ。トースターは1910年に、扇風機は1893年に、どちらもエジソンによって発明されている。製品の成熟度は極めて高い。パンを焼く。風を送る。そういった中核的な機能に差がないため、数値では測れない「味」「心地よさ」が評価される。デザインやアイデアといったバルミューダの強みを活かしやすい。
一方、掃除機はロボット掃除機の台頭、スマートフォンはOSの頻繁な更新やCPUの高性能化など、いまだ進化中だ。製品としての成熟度は高くない。だから、性能面で「良い・悪い」がはっきりしてしまう。
製品の成熟度について、バルミューダ社長の寺尾玄氏自身は、以下のように言及している。
電化製品の開発には段階がある。困ったことを解決するのが第一の段階だが、多くの「困ったが解決された」先進国ではもはやこうしたものづくりは成り立たない。次の段階で目指すべきなのは、ユーザに「気持ちいいと感じてもらえる」ような製品作りだ。
(バルミューダ奇跡のデザイン経営|日経デザイン)
氏の言葉を借りて表現すると、トースターや扇風機では、既に「困ったことは解決されている」が、掃除機やスマートフォンでは、まだ「困ったことが解決されていない」。この段階で、「気持ちいいと感じてもらえる」アイデアを投入しても評価されない。バルミューダの強みは活かしづらいのだ。
バルミューダの成長戦略式バルミューダの決算説明会資料には、成長戦略として、以下の売上高の式が掲載されている。
売上高=客単価×客数 客単価=テクノロジー+アート+ブランド 客数=エリア×ターゲット人数×商品ジャンル (2021年12月期 第3四半期決算説明会資料)
これを、バルミューダフォンの教訓を踏まえたうえで、翻訳すると、
枯れた技術の製品市場に(=商品ジャンル) 優れたデザインと(=アート) 独自のアイデアを活かした製品を投入し(=テクノロジー) アイデアの有効性をストーリーで訴求する(=ブランド)
となろうか。
説明会によると、今後は、円安を活かせる海外に注力するとのこと。だが、中長期的には、成熟した製品市場にジャンルを絞り込んだほうが良いだろう。