語りを担当する牧田哲也は、宮本亞門版『蝶々夫人』で、成長したピンカートンの息子を黙役として演じていた俳優。『リゴレット』では、リゴレットに恨みを持つチェプラーノ伯爵の役として、物語全体の語り部を担う。

マントヴァ公爵の廷臣であるマルッロを演じる倍田大生の調子も上々で、声楽も本格的な学んだ演出家の奥村啓吾は一語一句の大切さをかみ砕きながら、歌手たちに寄り添って演技をつけていく。本番前の稽古場は贅沢なほどの高揚感に満たされていた。

奥村 啓吾

今回は映像つきの演出ということで、時代背景を変えて上演しようかとも考えたのですが、演出として何か変えるというより、ヴェルディが作曲したオペラの美しさをそのまま表現したいと思いました。

この作品には「光と闇」というテーマがあり、リゴレットは道化として、ドゥーカ(マントヴァ公爵)が神に呪われないよう、身分の高い人の傍にいて目立つように振舞っています。いわばドゥーカの裏側の存在で、彼の厄をはらうために、反感を買うような言葉で人を笑わせたり嘲笑ったりする。今回はデフォルメといって身体が不自由な人の演技をリゴレット役の小林さんにもしていただきますが、肉体の病のせいでリゴレットは道化としてしか生きられないわけです。

映像では、時代背景を映し出すもののほか、心理的な描写を含ませたいと思っています。心理的な衝撃によって、宮廷そのものが崩壊したり、ジルダが初めて恋する心を映像を使って膨らませることもやってみたいですね。

ジルダという女性は、原作ではビアンカという名前で、白い、純粋という意味合いの名前で、ヴェルディでは設定が変わってジルダになっていますが、純粋ではあるけれどか弱い少女ではない。父親であるリゴレットに対しても、ドゥーカに対しても母性のような愛を捧げていて、それくらい大きい人物なのではないかと思っています。

演出家 奥村 啓吾

篠宮 久徳

ヴェルディ・オペラの中で一番好きなのが『リゴレット』です。どの役も演劇的に深く、音楽的にも充実していて、凄い作品だと思います。今回は指揮者がいないので『音で誘う』ということに気を付けていまして、皆さんの意識を見えない指揮棒で「振る」と言いますか、書かれていない音を出して誘うこともありますし、ヴェルディ先生には失礼かも知れませんが(笑)ピアノをフォルテで弾いたり、オーケストラ的な音を加えたりしています。歌手の皆さんはもう「さすがだな」と。一日一日どんどん良くなっていきますし、本当にオペラっていいなと思います。

本番の舞台ではグランドピアノを上手に置いて、歌手の皆さんを見て演奏します。客席を見ながらの対面の演奏にもなりますね。『リゴレット』というオペラですが、僕の中では『ジルダ』というオペラでもあります。彼女は本当に愛の人なんです。

ピアニスト 篠宮 久徳

ARTS MIX主催公演『リゴレット』

公演日 2022年11月23日 開場:13:00 開演:13:30

場所 飛行船シアター(上野駅徒歩8分)

チケット料金 一般席 7000円 / プレミアムシート 10000円 (席数限定・特典付き)

出演 マントヴァ公爵:宮里 直樹 リゴレット:小林 啓倫 ジルダ:宮地 江奈 スパラフチーレ:松中 哲平 マッダレーナ/ジョヴァンナ:藤井 麻美 モンテローネ/マルッロ:倍田 大生 語り:牧田 哲也 助演:白石 渉、松本 明音、吉田 静香 ピアノ:篠宮 久徳 演出:奥村 啓吾 映像:荒井音楽企画 照明:飛行船シアター 制作:市村 真美 ヘアメイク:趙 英