宮里 直樹
ドゥーカ(マントヴァ公爵)は有名なアリアが3つありますが、どれも気持ちの現れ方が全然違いますし、どのシーンも綺麗でかっこいい。全体の移り変わりが興味深いですし、愛に突然気づいたような場面もいいですよね。結局は軽薄な男の役なので、自分を一回全部捨てて取り組んでいます。『蝶々夫人』のピンカートンなど、尻軽な役が多いのはテノールの宿命です。
今回の『リゴレット』は当初、コンサート形式の予定でこんなに大変な舞台になるはずではなかったのですが(笑)、270度プロジェクションマッピングも入って、本格的なオペラ上演になります。最後の四重唱ではマッダレーナとの絡みがすごくて、ずっといちゃいちゃしていますので、その場面も見どころかと思います。
マントヴァ公爵 宮里 直樹
主役デビューが早かった宮里は現在35歳。宮廷の道化役リゴレットを演じる小林啓倫も37歳という若さ。70代のバリトンもこの役を得意としている歌手が多いだけに、とても若いリゴレットという印象だが、稽古場での小林には目覚ましい演劇性があり、声楽的なパワーも驚異的だった。
小林 啓倫
リゴレットは想像も出来ないほど悲惨な人。現代の人物とはかけ離れ過ぎているので、どうやって気持ちを作っていこうかと色々考えました。リゴレットはマントヴァ伯爵を憎んでいるようで、世界のすべてを憎んでいる。自分が世界を呪っていることが、結局全部自分に返ってきてしまっているんです。
役作りは、現代のマイノリティの人々の内面を参考にしています。声楽的にはヴェリズモの要素もあり、それだけでは歌いきれない繊細さもある。アリアの抜粋などは学生のときからいいなぁと挑戦してきましたが、やっと全部歌える機会が来ました。
リゴレット 小林 啓倫
リゴレットに殺人を依頼される殺し屋スパラフチーレはバス松中哲平。「ふだんは虫も殺せないタイプ」と語るが、稽古場では平然とした表情で迫力満点の悪人を演じる。
松中 哲平
演出の奥村さんには、登場した段階で100人くらい殺したような雰囲気で、と言われています(笑)。殺人系の映画などを観て準備しましたが、日常的に淡々と人を殺す役というのは難しい。
マッダレーナに泣きつかれてプロの掟を破る場面は葛藤もあって、人間的だなと思います。きっとスパラフチーレという人物も、殺し屋で生きるしかないという背景から、孤児だったんでしょうね。マッダレーナは妹という設定になっていますが、実のところそれも曖昧なのかも知れません。
スパラフチーレ 松中 哲平
マッダレーナとジョヴァンナの二役を歌う藤井麻美は、プロジェクトの発起人として稽古中もつねに全体を見まわし、歌い出す場面ではしっかりと役に入る。二期会の『蝶々夫人』ではスズキ役の名演が心に残るが、悪女マッダレーナも魅惑的に歌い上げる。
藤井 麻美
皆さんとてもお忙しい歌手の方ばかりなので、稽古のスケジュール調整もなか難しかったのですが、無事公演当日を迎えられそうで何よりです。
歌手は、大変といえば大変ですが、楽しいことのほうが多いですし、こうやって無我夢中にやっているうちに、いつの間にか本番も終わっているという感じです。自分が脇役で、なおかつ仲間が輝く場を作るのが嬉しい。楽しくなければ出来ません。
マッダレーナ/ジョヴァンナ 藤井 麻美
悲劇的なヒロイン、ジルダは、高音が命のコロラトゥーラ・ソプラノにとって難易度が高いドラマティックな役。稽古のときから献身的な歌唱を聴かせたソプラノの宮地江奈も、このプロジェクトの発起人のひとりだ。
宮地 江奈
留学中にコロナ禍が始まり、帰国してからもコロナの影響が続き、オペラ歌手にとってはとても辛い時期でした。今回『リゴレット』全幕を歌うに当たっては幸運もあり、日本に滞在中のアンドレア・ロスト先生から指導を受けることができたのです。ロスト先生のジルダに感動して、指導していただくために留学したので…先生のジルダは一瞬一瞬が奇跡のようで、まだまだ追いつけていないのですが。
今回はピアノ伴奏による上演で、指揮者がいないということで私たちにとっても大きな挑戦なのですが、ピアニストの篠宮先生が呼吸感を作ってくださるので、とても心強いです。
ジルダ 宮地 江奈