その解決策として紹介されているのが「公正なプロセスを支える3つのE」です。

3つのEとは、「Engagement(関与)」「Explanation(説明)」「clarity of Expectation(明快な期待内容)」とされています。

これらは、新事業を開始する時点からスタッフ全員を巻き込み、実行を見据えた戦略を立てるために必要なプロセスを示しています。それぞれ具体的に考えていきます。

1.Engagement(関与)

スタッフに戦略会議に参加してもらったり、そこまではできなくても意見を求めたりして、戦略の実行に関与してもらうことです。

なるべく早い段階から、深く関与してもらうことで、他人事ではなく自分事として取り組んでもらえるようになります。

たしかに、

「新事業をどうやって展開していこうか?」 「あなたはどう思う?」 「他にアイデアは?」

といったことを話し合う戦略立案の場から事業に関わるとやりがいを感じますし、新事業に愛着も湧きますよね。発言力が弱いテレワークのパートタイマーだったとしても、その場にいるだけで新事業のことがよく理解できます。

一方で、

「こんな事業を始めるんだけど、あなたメンバーに決まったから、よろしくね」

といったぐあいにすべてが決まったあとから関わると、どうしてもやらされてる感が出てしまいます。

一部の経営陣だけで戦略が決まる企業文化は、見直していく必要がありそうです。

2.Explanation(説明)

戦略を決めるにいたった理由を関係者すべてに説明することです。

スタッフの意見も考慮した上で、会社の利益のために新しい取り組みを始めることを決めたことなどが説明されれば、その決定に信頼を寄せてもらえます。

例えば、これまで店頭販売しか行っていなかった会社が、何の説明もなく突然ネット販売事業を立ち上げたとしましょう。

すると、

「ネット販売が始まったせいで商品管理がややこしくなった。」 「どうしてネット販売の仕事もしないといけないの? そのせいで帰りが遅くなった。」 「ネット注文全然入ってないけど大丈夫? 広告費も結構かかってそうだけど…。」

などよからぬ不満や不信感を持たれかねません。

しかし、次のような説明が事前にされていたらどうでしょう? 仕事に対するモチベーションが全然変わってくると思います。

「コロナ禍で売上が減少しているため、資金繰りが厳しくなってきている。キャッシュに余力がある内にネット販売事業を立ち上げて売上を安定させたい。」

「ECサイトの開設費や広告費をどうやって捻出するか、商品管理や配送などの業務フローをどのように整えるか、人事はどうするかなど、さまざまな問題が経理部や人事部、店舗スタッフから挙がったが、打ち合わせを重ねた結果、何とか解決できる目途が立った。」

「売上が減少している中、さらなる負担を強いることになってしまうが、ネット販売事業を軌道に乗せてお店もスタッフも守っていきたいので、一緒に頑張ってほしい。」

こういった説明をされると、社長が思いつきで始めたネット販売事業に振り回されているような感覚はなくなりますし、仮に自分の意見が通らなかったとしても、無下に扱われたような印象は持ちません。しばらく大変でも頑張ろうという気にもなりますよね。

このように、まったく同じことをしていても、説明があるのとないのとでは、スタッフのモチベーションに大きな差が出てしまいます。

3.clarity of Expectation(明快な期待内容)

戦略が決まった後で、経営陣がスタッフへの期待内容を明快に述べることです。

・目的を達成するために、目指すべき途中の目標は何なのか? ・どのような基準で評価がなされるのか? ・目標が達成できなかった場合、誰にどのようなペナルティがあるのか?

こういった目標、基準、責任の所在などを曖昧ではなく明快に示しておくことで、 かけひきやえこひいきが入る余地をなくし、戦略の実行に集中してもらうことができます。

例えば、目的が会社とスタッフを守ることだとして、そのために必要な1ヵ月の売上目標が2,000万円、1日の売上目標は100万円といった途中の目標をまず示します。

さらに、そのために製造部門は1日1,000個の製品を製造する必要があり、販売部門は1日500人のお客さんを集客する必要があるなど、各部門の数値目標も定めて、そのためにいつまでに何をすべきかといった、具体的な行動目標まで落とし込んでいきます。

加えて、目標の達成度合いだけでなく、仕事の質はどのような基準で評価していくのか(品質検査の結果、顧客アンケートの結果、熟練者の採点など)、ある目標が達成できなかった場合、どの部門の誰に責任があるのかなども事前に示すことができれば理想的です。

これらすべてを完ぺきにこなすのはハードルが高いですが、きちんと目標を示し、やるべきことや期限をチェックリストにまとめるといった工夫をすることで、リストを見れば仕事の達成度合いやミスが生じた原因などがわかるようになります。