SNSをはじめ、インターネット上での誹謗中傷が問題となっている近年。誹謗中傷が注目されるようになった背景や、誹謗中傷に対する対策について、アディッシュ株式会社の田中裕一朗氏にご寄稿いただきました。
そもそも誹謗中傷とは何か
近年はSNSの普及により、誹謗中傷と思われる投稿を目にすることが珍しくなくなってきました。ただ、一概に誹謗中傷といっても「何をもって誹謗中傷と判断するのか、わからない」と感じる人もいるのではないでしょうか。
当社では、誹謗中傷を“人格・存在の否定”、一方誹謗中傷としばし混同されがちな「非難・批判」は“言動を否定すること”として定義しています。
例えば「死ね」という言葉は、その人自身に対して否定的に述べる言葉なので「誹謗中傷」に該当します。「非難・批判」は、誰かの発言内容や行いに対して「それは違う」と否定することであって、そのやり取りが白熱しすぎる場面はあるものの、あくまでも議論の範囲内であるため誹謗中傷とはみなしていません。
誹謗中傷が注目されるようになった背景
1995年からインターネットが一般に普及し、誰もが容易に自分の意見を発信することのできる時代が到来しました。新時代のコミュニケーションにおいては匿名性の高さによって相手の心情を無視した誹謗中傷も多数発生しています。
昨今、特に誹謗中傷が注目されるようになった理由は「個人の変化」「社会の変化」の2つに分けられると思います。
個人の行動・意識の変化
誹謗中傷が注目されるようになったのは、誹謗中傷に対して「正攻法で対峙」をする人が増えてきているからでしょう。
誹謗中傷を受けた被害者が、加害者の個人情報をプロバイダーに開示してもらうためには、裁判所からの開示命令や犯罪が立件されることが要件です。
しかし、要件をクリアしてもプロバイダー側が開示しないケースがあることから個人情報の取得が困難となり、泣き寝入りをする人が少なくありませんでした。
ただ、現在は大変だった開示請求が以前よりも簡略化されたことで、芸能人やYouTuberなどの個人が申し立て、誹謗中傷をした人の個人情報の開示請求をするといった「個人が実際に“行動”を起こすケース」が増えてきています。
また、被害者である芸能人やYouTuberが、裁判を起こすこと、開示請求をすることについて、SNSで「宣言」する様子を見かけることも増えてきました。これは、社会のルールが変わっていく中で「もはや誹謗中傷は逃げられる行為ではないこと」「投稿内容には責任を持ってほしい」という世の中に対する訴えでもあります。
社会状況の変化
近年、Twitterをはじめ情報を不特定多数の人に拡散するサービスが増えたことで、どこかで話題になったことがさまざまなプラットフォームで取り上げられる「カスケード(連鎖的に物事が生じる様子)構造」が構築されました。
カスケード構造により、大勢の人がたくさんの情報を短時間で目にすることができるインフラ環境が整ったことで、一層問題が大きくなりやすくなってきています。
また、以前はマスコミが情報を取り上げて話題になるという流れが大半だったものの、昨今はインターネット上で「バズっていること」をマスコミが取り上げるという流れが多くなっていることも、この構造によるものでしょう。
そのほか、ここ数年のコロナ禍で行動が制限されたことも、誹謗中傷が注目される背景として大きく影響していると思います。
誹謗中傷といったネガティブな側面に限らず、インターネットの歴史上の変遷を振り返ってみても、ここまでネット上の投稿が注目され、盛り上がったことはなかったという肌感があります。
自宅で過ごす時間や1人の時間が増えたことで誹謗中傷をはじめ、Twitter上で折りが合わない人同士の議論が白熱したり、社会問題に対して意見がぶつかった相手のフェイクニュースを流したりすることが、以前よりも増えています。
インターネットがよい形で盛り上がればいいのですが、そうではない方向に動いているので、総量として「誹謗中傷が増えた」という印象が生まれているのではないでしょうか。