優秀な人材の発掘と抜擢が企業に与える効果

従来の優秀と言われてきた人材と今の時代に求められる優秀さに違いが生じてきました。従来の優秀の定義は、既存のオペレーションをいかに正確に、ミスなく回すことができるかという点に重きを置かれていました。

しかし、AIやRPAの導入により優秀さの定義は大きく変わりました。今、求められるのは、「常識や固定概念にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」「個々人の探究テーマに沿って、一つのことを掘り下げ没頭する姿勢」」「多様性を受容し、他者と連携・協働する能力」といったものです。

これらの能力や姿勢の土台となるのが、「自律性」です。自律とは「自分で自分を律する」というのが通常の意味ですが、その本質をさらに考えれば、自分で自分を「自由自在に」コントロールできる力のことをいいます。

ここで言う自律性の高い人材とは、

  • 自分の願い・想いを自分で理解し、
  • 自らの意志に基づいて行動に移し
  • 必要なだけその行動を継続させ、
  • 自らの望む結果(成果・現実)を周囲との相互作用を通して創り出すことのできる人

を指します。

この自律性が高い人材の見極めと早期発掘及びタフアサイメントをはじめとした抜擢戦略が今、企業には求められています。

自律性の高い人材を中心としたマネジメントが組織に与える影響力は大きく2つあります。

①組織カルチャーが育つ

自律性の高い人材は、カルチャー全体に高い影響力を持ちます。その第一歩目は、自律性の高い「要」同士の次元の高い語り合いによります。

例えば、「我々の役割・使命・価値」を本質的に探究し続ける語り合いなどがそうです。しかもそれは机上の理論ではなく、目の前の顧客を含めた現実に向かう「実践を決める」場においてこそ意味を持ちます。

この企業の使命や価値といった「本質」と現場での「次の一歩」をつなげようとするその持続が、カルチャーを育てます。

②次なる「要となる人材」が生まれる

①が実現されることで、要となる人材が次々と育つようになります。人の本来の成長とは、場を中心として為されます。人は一人では成長できず、人と関わり、場と関わることで初めて成長できるものですが、そのスピードが加速します。

人材を見誤った場合に起きうる企業の損失

自律性の高い人材は、プロジェクトやチームなど組織内におけるネットワークの中で、彼らを起点として何かしらの物事は進むことが多いです。これは組織において、部長やマネージャーなど実際のポジションや年齢とは関係なく、あらゆる人が自律性の高い、要となる人材になる可能性があります。

むしろ、株式会社パーソル総合研究所の調査によると、キャリア自律度は20代をピークとし、40代にかけて低下し、その後横ばいとなっている傾向にあります。

そうであるがゆえに、最も大事なことは、実際のマネジメントレベルや人材配置でもこの現象と一致させることです。例えば、自律性の高い人材が実際の組織でもリーダーや部長職に就くといったことです。

しかし、人材を見誤ってしまい、この点が不一致の場合、様々な問題が発生します。

代表的な現象を下記に紹介します。

①不必要なマネジメントコスト

「適切な人に適切な仕事の質と量が配分されない」ことは、自律性の高い人材ほど大きなストレスと疲労感を生みます。これにより、無駄な会議、無駄な施策、など不必要なコミュニケーションが多くなり、結果的に時間も心もゆとりがなくなります。このゆとりのなさは人間の本能である「自己防衛」を喚起します。

例えば、「逃げるコミュニケーション」。具体的には、消極的、受動的、責任回避、責任転嫁、言い訳、怠慢、自己卑下、などの多いコミュニケーションです。もう一つは、「攻めるコミュニケーション」。

自分が攻められる前に、人を攻める、責める、否定する、自己主張する、主義主張を押し付けるといったコミュニケーションです。

この自己防衛的コミュニケーションは組織の中で派閥と縛りを生みます。結果、不必要なマネジメントが発生し、モチベーションとコミュニケーションの質が著しく減退します。

②自律性の高い人材のパフォーマンスが著しく低下する

①が起きてしまうことにより、従業員、特に自律性の高い人材ほどパフォーマンスが低下する可能性が高いです。なぜならば、自律性の高い人材は主体的なキャリア形成意識と仕事意欲を持っているので、社内政治といった無駄なことを極めて嫌う傾向が高いからです。

そして、

  • 自律性の高い本当にその組織に必要な人ほど、その組織に失望し、組織を辞める
  • 本当はリーダーとして活躍するはずの人が、ただの評論家となり、現リーダーの足を引っ張る
  • 本当は共に向き合い、共に力を紡ぎ合える人達が自己防衛的になり派閥を作ったり、いがみ合う
  • 本当は高い自律性と確かな意志を持っている人達が、組織への失望感から、仕事をこなすだけになる
  • 本当は心の中では「改革が必要」と思っていても、それを実行に移す気力がなくなる

このようなことが組織の中で発生するようになります。

③組織のカルチャー自体が淀む

②はまだ人材レベルの事象ですが、②が深刻化しますとそれは組織という環境まで影響を及ぼします。組織の最も怖いことは悪影響の伝染力が高いことです。

具体的には下記の事象が発生することになります。

  • 一人一人の本来の能力や個性が出なくなる
  • その結果、本当はリーダーになるべきではない人がリーダーになってしまう
  • 本当はサポート役やNo.2の役割に向いている人がリーダーになってしまう
  • 本当は根は明るい人なのに、会社に行くと常に暗くなる
  • 本当は相性の良い人達なのに、事務所が暗くなる、冷たくなる
  • 本当は志のある人達なのに、誰もが志を忘れてしまう
  • 本当は主体的に動けるのに、誰もが「待ち」の姿勢になる
  • 本当は真剣にビジョンに向かいたい人達なのに、ビジョンに向かうのが馬鹿らしくなる

さらにその結果として、

  • 本当は活躍すべき人材が全く活躍しなくなる
  • 本当にその組織に必要な人が引き寄せられなくなる
  • 本当にその組織に必要な人材が集まらなくなる
  • これが循環し、ますます組織は混乱し、いったい何をやっているのかわからなくなる

といった悪循環が生まれます。