栄養・サプリメントは減量に欠かせない要素。ここでは、本分野のスペシャリストである桑原弘樹氏に挫折しない、効果的な減量法を教えてもらった。
取材・文:飯塚さき
1.明確な目標を立てよう
今回は、減量の根本的な原則についてお話ししていきたいと思います。そもそも減量がなぜうまくいかないか。ひとつは、シンプルにつらいからです。楽しいことやワクワクすることは、放っておいてもうまくいきますが、つらいことやきついことは、ハードルが上がります。方法として、どういうサプリメントを飲むか、どんな有酸素運動をするかといったことはありますが、まず考えるべきは、どうやってつらさのハードルを下げるかです。特にビギナーの人は、そこの努力をしておくと、思いのほか例年以上に頑張れます。
では、いかにつらさをなくすか。ひとつは、明確な目標を立てることです。目標を立てたからといってつらくなくなるわけではないのですが、明らかに達成率が上がります。目標が明確であればあるほど、脳はそれを実現しようと動き出すので、より高い次元で実現できます。例えば、高校球児がなぜあれだけつらい練習に耐えられるかといえば、それは甲子園に出たいという明確な目標があるからです。受験生が、寝る間も惜しんで取り組む勉強も、受験する学校が決まっているから頑張れること。もっというと、結婚式に向けての花嫁さんの美への追及もそうです。お金に余裕があるなしにかかわらず、ダイエットをしたりエステに行ったりしてきれいにするのは、結婚式という目標があるからであって、それが結婚後10年も続くわけではありません。
減量も同じく、まずは明確な目標を作ること。コンテストに出るというのは明確な目標ですから、ダイエットの成功確率を上げることになります。そこからさらに上を目指すなら、入賞する、3位以内に入るなど、さらに目標を明確にしていくと、成功確率を高められます。
2.プレ減量期間を作ろう
もうひとつ、そもそもなぜ減量がつらいかを考えてみましょう。お腹が空くからという理由もありますが、1日のうちでお腹が空くシーンはたくさんあります。飢餓の歴史を背負った人類にとって、空腹はつらいメッセージになるので楽しくはないはずですが、だからといって日々空腹は経験していることでもあります。
減量中は、カロリーを含め様々な栄養素を制限することになります。すると、ATP(エネルギー)を作る効率が落ちます。大きな栄養素という点では脂質・糖質などを抑えて、全体の栄養バランスを意図的に崩していますし、逆にタンパク質はそれを補うかのように大量に摂取をしなくてはなりません。減量をしていくうえではやむを得ない、ある意味正しい取り組みではありますが、これは確実にATP産生にはマイナスに働いています。つまりエネルギーが作られにくい状況になっているのです。このATPを作る効率を落とすことが、実はつらさの主たる原因です。単にお腹が空いているだけではなく、ATPを作る効率が下がっている。ATPは体内に蓄えておけないので、人は死ぬまでATPを作り続けなくてはなりません。逆に言えば、ATPを作らなくなることは死を意味します。それが、減量のつらさの原因であることを理解しておくといいでしょう。
では、このつらさを取り除くためには何をしたらいいのでしょうか。解決策もあります。私が提案したいのは、「プレ減量期間」を設けることです。全体の減量期間がどれくらいかにもよりますが、およそ2週間~1か月くらいの減量手前の期間を作るのです。減量に入ったからといっていきなりストイックなカロリー制限を始めるのではなく、プレ減量期間ではいったんものすごくバランスのいい食生活をするのです。まずはPFCバランスを整えて、ミネラルもビタミンもしっかりと充足させて、水分をしっかりと取り、睡眠時間もきちんと確保するようにします。それによって最大限ATPを作りやすい状態を作ってやるのです。
PFCバランスとは三大栄養素のバランスのことですが、いまは「エネルギー産生栄養素バランス」と呼ぶようになりました。一見、長くて分かりにくい名称のように感じるかもしれませんが、エネルギー産生がされやすいバランスであるという本来の意味を表しているのです。本格的な減量に入ると代謝が下がり、結果としてATPを作る効率も落ちますが、プレ減量期間を設けてしっかりとそこの部分の底上げしておくと、減量突入時においては代謝の高いときの勢いで入っていけるので、直後の効果が出やすくなり、ひいては結果が見えることでモチベーションも上がってくれるでしょう。
脂質や糖質を抑えて、いきなりある日を境に本格的な減量に入る人もいますが、必ずしもオフに代謝の高い状態でいるとは限りません。トップビルダーのようにオフから食生活に最新の注意を払い、ATP産生がされやすい状況を作っている場合にはいきなりの減量は問題ありませんが、多くのケースを見る限りでは一度理想の食生活にもっていき、そこから本格的な減量に入ることが望ましいでしょう。結果として減量期間は予定よりも2週間~1ケ月多めに計画しておくといいということになります。
◆プチアドバイス➀
プレ減量期間はより代謝を上げておこうという試みですが、ここに取り入れておくと良いルーチンがあります。ひとつは少しだけ早起きをして起床時にグルタミンを100CC程の水で飲む事です。グルタミンは非必須アミノ酸ではありますが、小腸のエネルギー源となったり胃粘膜の修復にも効果があるアミノ酸です。実際、胃薬などにもしばしば配合されているほどです。減量時にグルタミンを飲むのは、筋肉の分解を防ぎたいということからアンチカタボリック(抗異化作用)を期待してというケースが多いかと思いますが、(もちろんそれも間違いではありませんが)むしろ内臓を活発化させて代謝を上げるという効果に着目するといいと思います。起床時は起きている間の中ではもっとも代謝が低いタイミングなので、グルタミンを飲むタイミングとしてもうってつけなのです。
そしてもうひとつ、肩甲骨を動かすエクササイズをしてみてください。両手を前後にスイングさせたり、あるいは身体の前でクロスさせたりすれば、自然と肩甲骨が動かされます。ここには褐色脂肪細胞という細胞があって、代謝をあげて脂肪の燃焼を促進させる効果があります。もちろん朝からウォーキングをしたり、軽い朝トレなども効果がありますが、疲労の問題や継続性の事を考えるとあまり意識を高くもってやるエクササイズでないほうがむしろよかったりします。
至って小さな努力ですので、当たり前の行為として、すなわち朝のルーチンとして習慣化させていければ塵も積もれば山となる方式で少しずつ減量のリータンを大きくしてくれると思います。