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個人事業主の遺族がやるべきこと6選【期限のあるもの】
個人事業主の遺族がやるべきこと5選【期限のないもの】
個人事業主の遺族がやるべきこと6選【期限のあるもの】
ここまでの内容から、個人事業主の遺族は多くの手続きが必要だとお分かりいただけたかと思います。ここからは、必要な手続きのうち「期限のあるもの」を見ていきたいと思います。
なお、今回取り上げる以外にも死亡時手続きは多く考えられますが、「個人事業主が特に該当しそう(面倒になりそう)なもの」を取り上げて解説します。
1. 国民健康保険証の返却
個人事業主の多くは国民健康保険の被保険者です。しかし、亡くなった場合は国民健康保険の対象ではなくなるため、遺族が国民健康保険証の返却を行うことになります。故人の住んでいた市区町村の窓口に国民健康保険証を返却しましょう。手続き期限は「死亡から14日以内」と少々タイトなスケジュールです。
ただし、資格喪失届は、死亡届の提出によって自動で処理される場合も多いです。
手続き期限 | 死亡から14日以内 |
手続き先 | 故人の住んでいた市区町村の役所 |
提出するもの | 保険証 |
2. 廃業届などの提出
個人事業主が亡くなった場合は、後継者が事業を引き継ぐ場合も含め、原則として「廃業届」が必要になります。廃業(=死亡)から1か月以内に、故人の納税していた税務署へ廃業届を提出しましょう。
税務関係の書類は廃業届以外にも複数あります。青色申告をしている場合は「青色申告取りやめ届出書」を廃業年の翌年の3月15日までに、課税事業者の場合は「事業廃止届出手続書」を廃業後すみやかに提出する必要があります。インボイス制度の施行で課税事業者が増えると見込まれるため、どちらの手続きもマストになってくるでしょう。
さらに、15万円以上の所得税納税が見込まれる場合は、納税額の一部を前払いする「予定納税」という制度の対象になりますが、年内の死亡により予定納税額を下回る見込みの場合は「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請手続書」を提出して減額手続きを行う必要があります。
手続き期限 | 廃業から1か月以内(廃業届)、廃業年の翌年の3月15日まで(青色申告取りやめ届出書) |
手続き先 | 故人の納税していた税務署 |
提出するもの | 各種届出書 |
3. 相続放棄
被相続人の資産は誰かが相続するのが一般的です。しかし、「経営が行き詰まり、借金地獄に陥ってしまった……」というような個人事業主が亡くなった場合では、相続すると資産より負債が多くなり、借金を背負う形になることも想定されます。
こうした事態を防ぐためには、相続を放棄する手続きが必要になります。相続放棄は相続開始を知ってから3か月以内に申し立てをしなければなりません。ほかの死亡時手続きを並行しながら、資産と負債を把握し、相続するべきかを判断するには3か月でも短いでしょう。
なお、資産と負債がよく分からない場合、相続したプラスの資産を上回らない範囲でマイナスの負債を相続する「限定承認」という相続方法もあるため、自分にとって最適な相続手続きをよく考えてみましょう。
手続き期限 | 相続開始を知ってから3か月以内 |
手続き先 | 家庭裁判所 |
提出するもの | 相続放棄の申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本など |
4. 準確定申告
個人事業主が亡くなったからといって、税金の納付が免除されるわけではありません。「当該年度の1月1日~死亡日までの合計所得」が48万円(基礎控除額)を超える場合(あるいは還付金がある場合)、確定申告が必要です。しかし、亡くなった人が確定申告をするワケにはいかないので、相続人が共同で確定申告書をつくって提出する「準確定申告」を行わなければなりません。
準確定申告は相続開始を知った日から4か月以内に行う必要があります。人によっては慣れない帳簿付け、確定申告書の記入が大きな負担になるでしょう。幸い、準確定申告が必要なのは一度きりなので、無理せず税理士の力を借りるのもオススメです。
手続き期限 | 相続開始を知ってから4か月以内 |
手続き先 | 故人の納税していた税務署 |
提出するもの | 通常の確定申告書類、準確定申告書 |
5. 相続税の申告
相続が穏便に終わり、遺産が行きわたっても相続は終わりません。相続の完了後は、相続税の申告が必要になります。ただ、遺産総額が「基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)」を下回った場合、そもそも相続税がかかりません。
相続税の計算は例外なども多く非常に複雑ですが、おおまかな流れは以下の通り。
- 遺産総額から基礎控除を差し引き、課税される遺産総額を算出
- 各人が法定相続分を相続したと仮定し、配分した遺産に相続税率をかけて一人ひとりの仮相続税を算出
- 一人ひとりの仮相続税の総額を算出
- 実際の相続割合に応じた確定版の相続税を算出
詳細な解説は省略しますが、面倒くささはよく伝わったかと思います。相続税の申告は被相続人の死亡から10か月以内と期限も決まっているので、早めの準備を心がけましょう。
手続き期限 | 被相続人の死亡を知ってから10か月以内 |
手続き先 | 故人の納税していた税務署 |
提出するもの | 相続税の申告書 |
6. 保険金などの受け取り
個人事業主のなかには、国民年金だけという手薄な社会保障をカバーするために「iDeCo」や「小規模企業共済」などの制度を利用している方も多いでしょう。個人事業主が亡くなると以後の支払いが必要なくなるのはもちろん、原則として遺族は「死亡一時金」を受け取れます(受け取り順位は制度によります)。
国民年金の死亡一時金(遺族基礎年金や寡婦年金を受け取らない場合)の受給権は死亡の翌日から2年、iDeCoの死亡一時金の受給権は死亡から5年で効力を失うため、余裕のある時に手続きを済ませましょう。
個人事業主の遺族がやるべきこと5選【期限のないもの】
個人事業主の遺族がやるべきことには、期限のないものも多くあります。ただ、言ってみれば法的な期限がないだけで、文字通り速やかに済ませるべき手続きもあるのが実情。
ここでは期限こそないものの、個人事業主の遺族がやるべきことをまとめました。
1. 遺言の確認、検認
ここまでの説明で、相続に際しては遺言の存在が大切だということはご理解いただけたと思います。逆に言えば、遺言の有無がハッキリしなければ相続は進められないのです。
そこで、まずは遺言の有無を確認し、存在する場合は遺言の隠ぺいや書き換えなどを防ぐため、家庭裁判所で「検認」という手続きをする必要があります(遺言の形式によっては不要)。検認時に内容は確認できるので、原則は遺言に従って相続を進めていくことになります。
また、法的な効力はないものの、故人が死後のために執筆した「エンディングノート」などがあれば、死亡時手続きの大きな助けになります。発見したら必ず確認しましょう。
2. 相続人の確定
遺言の確認ができたら、相続を開始するにあたり「そもそも故人の相続人は誰なのか」を把握しなければなりません。これを「相続人の確定」といい、故人の戸籍謄本を調査して相続人を確定させるのが一般的です。
遺言がある場合を除き、相続権が発生する親族は決まっています。
3. 故人の財産調査
相続を進めるうえで、「故人はどのくらい財産を持っていたのか」を把握することは非常に重要です。相続額や相続放棄の決断は、正直「故人の財産次第」といえるからです。
遺言の作成時は財産リストである「財産目録」がセットになる場合も多く、これを参照できれば財産調査はかなり楽です。ただ、財産目録がない場合、個人事業主の財産把握は難易度が上がります。
4. 取引先への通知
故人の取引先への通知は法的な義務ではないものの、個人事業主の場合はマストといっていい手続きでしょう。会社員と違いクライアント側が個人事業主の訃報を知ることも難しく、業務内容によってはプロジェクトに多大な影響を与えるためです。
また、個人事業主の場合は報酬まわりにも目を光らせる必要があります。ただ、死亡時手続きと並行して法的に高度な話し合いを行うのは現実的ではなく、こうした状況が想定される場合は弁護士などのプロに相談するべきでしょう。
なお、進行中の案件などについてクライアントに個別連絡の必要がある場合を除き、SNSなどを代わりに更新して訃報を拡散するのも選択肢の1つです。
5. サブスク、保険などの解約
これは近年特有の手続きでしょう。特に、2020年代中盤から人気となったサブスクサービスでは、基本的に契約者の死亡を確認できません。そのため、契約者の死後も課金が続いてしまうリスクがあります。遺族は速やかにサブスクなどの解約を進めるべきでしょう。
特に、個人事業主は業務上の必要性から以下のような高額サブスク、保険に加入している可能性は高いです。
- クリエイティブツール(Adobe Creative Cloudなど)
- ビジネスツール(Office 365など)
- 会計ソフト
- 業務系の保険
数か月分だけでもかなり高価になる場合もあるので、可能な範囲で解約するようにしてください。