目次
MADE IN USAの価値
ついにパック界のロールスロイスを買う
MADE IN USAの価値
90年代、パタゴニア製品を買いあさっていたとき、なるべく北米製を選びたいと、カタログに記載されていた生産地名を気にしていました。労働力が安い国へ生産地が移行されつつある時期でしたが、まだMADE IN USAの製品も一部、選べた時代だったのです。自分がMADE IN USAに執心したのは偏見と先入観があったのかもしれません。はたしてMADE IN USAの優位性は語感のイメージだけだったのか、布施さんに質問しました。
MADE IN USAのレアなバッグを多様にストック
「20歳の人から『MADE IN USAの何が良いの?』と聞かれても、アメリカでつくっているから良いとか抽象的な答えしかできない。それを言われたらという想いはあるけれど、若い子の言うことももっともだし、おじさんはおじさんで楽しめばいいんじゃないですか? ただ細かい話をするとアメリカでつくるのと、アジア生産のものではカバンにしてもフリースにしても全然違います。色を見れば歴然とした違いがわかる。商品企画をする本社の隣に工場があるのと、遠い工場に色を指定して頼むのとでは仕上がりが違う。中間色の色合いが伝わりにくいから、アジア生産のものはわかりやすい色ばかりになりましたね」。
現地では生地工場もくまなく視察したという布施さんの指摘は事実なのでしょう。北米人の大らかな感覚が生み出す微妙な中間色は、ヨーロッパのシックな色彩とは異質な魅力があります。北米製の生地特有の美点を聞いて、私が90年代から2000年代初頭のパタゴニア製品の虜になっていた理由がよくわかる気がしました。そういえば、2002年ごろから急速に購入意欲が萎えていったのも、生産地の移行にともなう色の変化が影響していたのかもしれません。
MADE IN USA、2000年製造の「ヒップ・ボルト」
パタゴニアは90年代から2000年代初頭には優れたバッグも販売していました。布施さんによれば、2001年ごろまでのUSA製のクオリティがとても高かったといいます。こうした布施さんの佳いものを見極める見識に触れていると、おのずと布施さん個人のお気に入りを自分も使ってみたくなります。どの製品のどんな点が佳いのか断言する助言に背中を押されての買い物はじつに楽しいものです。
今回の取材で、私は布施さんの認める名品「ヒップ・ボルト」というバッグを購入しました。腰に巻きつける一般的なウエストとちがって、ネーミング通り、お尻のあたりに装着します。ぴったりフィットするよう、お尻に合わせてバッグ背面はカーブを描いたデザインがなされています。ところが、ウエストバッグのように腰に装着し、本来のパフォーマンスを十分に引き出せていないユーザーも多いそうです。そんな話にうなずきながら、深く正しい知識をもつ人から佳い物を買える。そんな店にめぐり合えた感激が湧き上がってきました。
「ヒップ・ボルト」は内側にパスポートが収まるポケットが付いていて旅行に役立つ
北米の仕入れ旅にも愛用していた布施さんは体正面の斜めに「ヒップ・ボルト」を位置させていた。さらに上からシャツをかぶせると、スリ対策の効果があるとか。
ついにパック界のロールスロイスを買う
店に入ってすぐ右手にそびえるグレゴリー製パック群の壁。頂上に行くほど稀少さが増す。
最初の取材訪問では、大好きな90年代のパタゴニア製品について知らない裏話をたくさん聞くことができて、その日は深夜まで興奮。濃密な時間を思い起こしていたとき、「自分はカバン屋ですから・・・。グレゴリーが好きなんで」という布施さんの一言が頭に浮かんでは気になり始めました。自分の「好き」ばかりでなく、店主の本当の「好き」を聞き逃したのではないか。そんな疑念から、その週末に再び「バックストリート」を目指したのでした。
グレゴリー・マウンテン・プロダクツ(以下、グレゴリー)は1977年にサンディエゴで設立された、アウトドアでの使用を主としたパックを製造するメーカー。プレイボーイ誌に「パック界のロールスロイス」と賞賛されたくらい、性能も人気も、値段も高いMADE IN USAの逸品を世に送り出していました。パタゴニア製品を信奉していた1990年代も当然ながら存在は知ってはいましたが、縁がなく、これまで使う機会を逃してきたのです。
そこで、布施さんが確信をもって佳いと認める最上のパックを自分も体験したいと、定番製品のひとつで、旅でも日常でも使える容量の『デイパック』を買おうと決めたのでした。製造年、ロゴ、色、素材、パーツなどの違いで『デイパック』の値段はさまざま。そのバリエーションを雑誌の特集記事で確認してから店に向かいました。
購入した「青文字タグ」の『デイパック』
まだグレゴリーのパックが北米でつくられていた時代(2014年以降はアジアで生産。香港のサムソナイトが会社を買収)の逸品を前に、どれにするかなかなか決められないでいたとき、私の予算で昔の雰囲気を味わいたいのならと布施さんは「青文字タグ」を選んではどうですか?と声を掛けてくれました。
青い文字のロゴマークが施されたのは1993年から1997年の4年間のみ。この時期の『デイパック』は1998年から現在にいたる「銀文字」タグの製品とくらべて荷物をたくさん入れた時のパック全体のフォルムが佳いのだとか。しかも、色味もMADE IN USAならではのもの。現行品との違いを知って、納得して1996年製の『デイパック』を購入したのです。
店内で背負ったとき、今まで所持してきたどのパックよりも、体に官能的なまでに心地よく、ぴったりとフィットする感覚にうっとりしました。人間工学を徹底的に探究し、「パックは背負うのではなく、着るもの」と唱えた創業者ウェイン・グレゴリーさんの独創が瞬時にして体感できるような気がしました。
私とこの『デイパック』との付き合いは始まったばかりですが、この先10年、20年と愛用していきたいし、長い使用に耐える良品と出合わせてくれた「バックストリート」に感謝したいと思います。この日以来、『デイパック』が日常の移動時間を心躍るものにしてくれています。近々に控えているイタリアの長期滞在で使うのが楽しみでしかたありません。
MADE IN USAのグレゴリーを使っていることに私は優越感を抱く。しかし、年々その数は減ってきているという。内側の防水コーティングの部分は自然の劣化で剥離するのが避けられないが、物を快適に運ぶ機能は失われることはない。クリーニングと保管方法については購入時に尋ねてみよう
肩まわりに沿うショルダーハーネスと、肩にかかる負担を分散・軽減するパーツ「スターナム・ストラップ」の仕様と工夫が秀逸で、極上のフィット感をもたらす。
バックストリート BACK STREET
住所:東京都町田市中町1-17-4 町田中町第一ビル2階
電話:042-720-0355
営業時間:13:00~20:00
定休日:無休 ※不定休もあるので、事前に電話で確認がベター
文・写真・ヤスヒロ・ワールド/提供元・たびこふれ
【関連記事】
・避暑地アッター湖で、クリムトセンターと「クリムトの庭園」を訪ねる
・ベルリン郊外に残るベルリンの壁跡地でハイキングやサイクリングを楽しむ
・高速列車「あずま」で東海岸を行く、ロンドンーエディンバラ間鉄道の旅
・【北海道】異国情緒溢れる街・小樽に行ったら、たくさんの笑顔に溢れていた。
・ハワイ・ハレイワタウンでランチをするなら?食べたい内容別のおすすめ5店を紹介