「引越し」は人生の大きなイベントのひとつ。しかし、「あまり引っ越しをしたことがない」「引越しの手続きは全部親がやっていた」という方も多いでしょう。引っ越しの際に必要な手続きはたくさんあるため、慣れていない方は苦労するかもしれません。
さらに、フリーランスの場合は一般的な引越しよりも複雑になりやすい一方、情報が少なく困惑してしまうケースもあります。
そこで、今回はフリーランスとして過去に2度の引っ越しを経験した筆者が、「フリーランスの引越し」について解説します。
引越しのおおまかな流れ
今回はフリーランスの引越しを中心に見ていきますが、「じつは引越しの流れそのものがよく分からない……」という方もいるかもしれません。
ここでは一般的な引越しでのおおまかな流れをリスト形式でまとめていきます(リストは早めに着手すべきものから並べています)。
【引越し前】
- 引越し日程/プラン/業者を決める
引越しをするには、そもそも引越しの方法を決めなければなりません。自力で引越しする場合以外は、早めに引越し業者の手配などを済ませましょう。 - 現在の賃貸物件を解約する
賃貸物件の退去は、退去する1~2ヶ月前の通知が必要です。こちらも早めに済ませましょう。 - 粗大ごみの収集依頼
引越しにあたっては多くの粗大ごみが出ます。新居に不要なものは処分してもらいましょう。 - ライフラインの引越し手続き
電気/水道/ガス/ネット回線などは自然に引き継がれるものではないので、それぞれ移転(解約)手続きを行いましょう。 - 転出届の提出
別の自治体に引越す場合は、引越し前の自治体の役所で転出届を出す必要があります。転出届けの提出は引っ越しの14日前から可能なため、引越し前に手続きを済ませておくのがおすすめです。 - 国民健康保険の資格喪失手続き
国民健康保険は自治体が管理するため、自治体が変わる場合は国民健康保険の資格喪失手続きも必要です。転出届の提出と同じタイミングで行うと効率的です。 - 税務関係の手続き
自宅を事務所としているフリーランスの場合、引越しによって納税地が変わります。詳しい手続きは後ほどご紹介します。 - 郵便物の転送手続き
フリーランスは自宅に業務関係の郵便物が届くことも多いはず。転送手続きを出して、引越し先で確実に受け取れるようにしておきましょう。 - 荷造り
引越し先へ持っていく荷物はしっかり荷造りしておきましょう。荷造り後は作業場に困るので、一時的に近所のコワーキングスペースなどで仕事をするのもおすすめ。
【引越し後】
- ライフラインの利用開始手続き
引越しが済んだら、電気/水道/ガス/ネット回線などの利用開始手続きを進めましょう。 - 荷解き
まずは必要最低限の荷解きを済ませ、以下の手続きと並行して徐々に荷解きを進めていくことをおすすめします。 - 転入届の提出
転出届と同じく、別の自治体に引っ越した場合は転入届を役所に提出しましょう。印鑑登録なども合わせて進められます。 - マイナンバーカードの住所変更
普通の人であれば転入時の小さな手続きなのですが、フリーランスの場合はかなり大きな意味を持ちます。詳しくは後ほど触れます。 - 国民健康保険の加入
引越しによって国民健康保険の加入資格を喪失しているので、引越し先で再び国民健康保険に加入しましょう。 - 各種住所変更手続き
免許証やクレジットカードなど、住所変更の必要があるものは多いです。フリーランスの場合は事業関係の住所変更手続きも忘れずに。
フリーランスの引越し手続き
上記の引越し手続きのうち、以下では特に「フリーランスに関係のある手続き」をピックアップしてくわしく解説します。
【引越し前】国民健康保険の資格喪失手続き
フリーランスは会社の健康保険ではなく、国民健康保険の被保険者となります。国民健康保険の管理者は各自治体であるため、引越し前の自治体の役所で資格喪失手続きをしなければなりません。
手続きは転出から14日以内に行う必要があるため、転出届の提出と同時に済ませるのがもっとも効率的です。
手続き先 | 引越し前の居住地の役所 |
期日 | 転出から14日以内 |
持ち物 | 身分証、国民健康保険証 |
【引越し前】税務関係書類の提出
フリーランスのなかには自宅を事務所としても利用している方もいるでしょう。この場合、「引越し=事務所移転」となるため、納税地の変更に関する手続きを行う必要があります。
人によって必要な手続きは変わりますが、代表的な手続きは以下のとおり。
- 納税が必要で、事務所を変更したフリーランス:
所得税(消費税)の納税地変更手続き - 個人事業税の納税が必要(所得290万円以上)で、居住都道府県を変更したフリーランス:
個人事業税の納税地変更手続き
これらの注意点は、引越し後ではなく引越し前の税務署/都道府県の税事務所での手続きが必要ということ。なお、引越し後の手続きは必要ありません。
手続き先 | 引越し前の納税地の税務署/都道府県の税事務所 |
期日 | 原則転居前 |
持ち物 | 身分証、申請書類、印鑑、マイナンバーカード(個人事業税の場合必要なことがある) |
【引越し前】郵便転送の手続き
旧居を引き払っても、リアルタイムで郵便物の送り手に情報が届くとは限りません。フリーランスの場合、取引先からの書類が古い住所に届いてしまうと、仕事に支障をきたす可能性が高いです。
そのため、郵便局で旧住所あての郵便物を1年間新住所に転送してくれる「転居・転送サービス」を利用しましょう。ただ、こちらは郵便局へ行かなくてもオンラインで手続きできる『e転居』というサービスがあります。

転送開始日は指定できますが、情報の登録に3日〜1週間程度かかるため、即日対応はできません。引越しの1週間前を目安に手続きを進めるのがおすすめです。
手続き先 | 郵便局(オンライン手続き可) |
期日 | なし |
持ち物 | 旧住所が確認できる身分証(郵便局へ行く場合) |
【引越し後】国民健康保険の加入手続き
引越しが済み、転入届を提出するタイミングで国民健康保険の加入手続きも済ませるようにしましょう。
国民健康保険への加入が遅れると医療費の負担が増えたり、保険料の二重払いの可能性が出てきたりするので、注意が必要です。
手続き先 | 引越し後の居住地の役所 |
期日 | 転入から14日以内 |
持ち物 | 身分証、転出証明書 |
【引越し後】マイナンバー関連の手続き
引越し後はマイナンバーカードの住所変更手続きが必要ですが、e-taxを利用しているフリーランスの場合はマイナンバーカード内の「電子証明書」に関する手続きがとても重要です。
e-taxの主要なログイン方法に、カードリーダーでマイナンバーカードを読み取ってログインする「マイナンバーカード方式」があります。ここでカードリーダーがマイナンバーカードを読み取る際、本人確認に利用されているのはカード表面の印字ではなく、カード内にある「署名用電子証明書」です。

この署名用電子証明書は、住所や氏名の変更があると失効し、そのままでは利用が不可能になります。そのため、マイナンバーカード方式でe-taxを利用している場合、券面の記載を変更するタイミングで署名用電子証明書の更新も忘れずに行いましょう。
手続き先 | 引越し後の居住地の役所 |
期日 | 記載事項の変更から14日以内(未手続きで転入から90日が経過するとマイナンバーカードそのものが失効します) |
持ち物 | マイナンバーカード |
【引越し後】各種住所変更
引越し後は、多くのサービスや書類などで住所変更が必要になります。具体的には以下のものが代表例です。
- 運転免許証
- クレジットカード
- 銀行口座
- サブスク
- 通販サイト
- 会計ソフト
- 保険
- 請求書/納品書/発注書などの宛名
ほとんどのサービスはオンライン上で住所変更できますが、銀行や保険などはたまに現地でしか手続きができないパターンもあるので、どういった手続きが必要かはよく確認しましょう。
転入届を提出したタイミングで新住所の住民票の写しを取っておくと、住所変更手続きが楽に進められます。