「香り」と「言葉」を結ぶKAORIUM
――御社が開発する「KAORIUM(カオリウム)」とは、どんなものなんでしょうか?
栗栖:香りと言葉が結びつくとこれまでにない体験が作れると考え、カオリウムを開発しました。シンプルにいうと、世の中に存在する香りを言葉で表現し、反対に言葉から香りを選び出すことができるシステムです。
たとえば、ある香りを持つミニボトルをカオリウムのパネルに置くと、その香りを表現した「華やか」や「甘い」といった言葉がパネル上に出現します。
パネルから言葉を一つ選ぶと、その言葉の印象を持つ香りのミニボトルのリストが表示される仕組みです。
――香りを表す言葉はどうやって収集しているのでしょうか?
栗栖:ある香りに対して感じた言葉をデータとして集めます。そのデータと、Web上や文学作品にある膨大な言語表現をAIに学習させています。
――香りを言葉で表現することに、どんな良さがあるのでしょうか?
栗栖:香りの感じ方は人それぞれ異なります。また、香りが脳に入ってきたときに、過去その香りに抱いた感覚や文化的バックグラウンドなども影響して感じ方が変わります。
つまり、香りとはコグニティブダイバーシティ(認知的多様性)を与えるものだといえます。言葉で表現することは、自分ならではの感じ方をわかりやすくサポートする、言い換えると、自分だけの感性と香りをひもづけるサポートをしていると考えています。
――私たちの体は、ただ香りだけに反応しているわけではないんですね。
栗栖:私たちはマンガを読んだり、歌を聞いたりすると、感情の揺れ動きを感じます。絵とセリフ、音楽と歌詞といったように、感覚と言葉が結びつくから感情の動きがより強くなるんです。
つまり、言葉とは五感がもたらす体験や快感を増幅する力があるものだと考えています。
香りがわかると、自分がわかる
――カオリウムは実際にどんなシーンで活用しているのでしょうか?
栗栖:昨年、若者に人気のフレグランス店とコラボレーションをおこないました。店舗に設置したカオリウムが示す言葉とともに、20種類のフレグランスから好きな香りを選ぶイベントを1カ月間実施しました。
香りと言葉を行き来する体験を通じて、最終的に3つの好きな香りを選ぶ仕組みで、自分の香りの好きな軸となる言葉もわかるようにしました。
――利用者の反応はいかがでしたか?
栗栖:とても好評で、実際の商品の購入につながったコンバージョンレートはイベント実施前の3倍近くまで向上しました。
「この香りって、こんな言葉で表現できるんだ」と理解が進んだことで商品選びがしやすくなったのだと考えています。
――店側の商談も変わりそうですね。
栗栖:フレグランスショップのスタッフに話を聞くと、今までは「お客さまがどんな香りを好むかわからないから、売れ筋を勧める」なんてことも多かったそうです。
今回のイベントを通じて、「お客さまの嗜好が見えることで、コミュニケーションがしやすくなった」という声をいただきました。
――そのほか、アスリートとの取り組みもおこなっていると聞きました。
栗栖:東京オリンピックのフェンシング(エペ団体)で金メダルを獲得した見延和靖選手や、さまざまなアスリートとのコラボレーションをしています。
見延選手は、試合時にコンディションをピークにするために、試合以外の時間でいかにリラックスできるかを重視しています。そのために最もリラックスできる香りを作る、というのがプロジェクトの趣旨でした。
――どうやってリラックスできる香りを作ったのでしょうか?
栗栖:まず、見延選手がどういった香りが好きか、好きな香りからどんな言葉を連想するのか、さまざまなデータを取りました。
それから、見延選手が「リラックス」という感覚にどういう言葉を求めているのか、コミュニケーションをとりながら探っていき、言葉をひもづけて選んだ香りをブレンドしてお渡ししました。
――「好き」と「リラックス」を言葉で結びつけたんですね。
栗栖:私たちがおこなったことは「目的に合った香りを作ること」です。ほかの協業パートナーにもこのプロジェクトで得たノウハウを展開していきたいと考えています。