目次
小さくて意味がある
シンプル・イズ・ベスト

小さくて意味がある

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<豆粒大の独楽。右端のが「助六」で扱う独楽ではいちばん大きいサイズ。左側の小さい独楽はひょうたんに5つ入っていて6,000円(税込、以下同じ)>

江戸の享保年間(1716~1736年)は武士より町民が経済的豊かになった時代。8代将軍徳川吉宗の時代に発令された奢侈(贅沢)禁止令により、裕福な町民層が楽しんでいたお雛様や五月人形などの豪華に飾る大きな玩具はご法度に。そのため、できるだけ小さくて精巧な細工をほどこした玩具や、幕府に対しての風刺や洒落をきかせた江戸趣味の小玩具が作られるようになりました。お上からの圧力をユーモアたっぷりにかわし、新たな楽しみを生み、心の拠りどころを見出していく江戸町民の強さ、しなやかさには崇敬の念を抱きます。こうして誕生した江戸の小玩具には、小さな物を慈しむ心と、願いや祈りが託されていると木村さん。

たとえばと、手のひらに載せた小さな独楽(こま)は豆粒状のサイズなのに、大きな物と変わらぬ姿をしているうえ、いちど極細の軸をひねれば、くるくるとよく(まめに)回ります。その滑らかな動きには「こまめに健康に」という願いがこめられているのだそうです。「健康と成長、厄除け、五穀豊穣、商売繁盛など、小さくてなおかつ意味があるというのが江戸小玩具の良いところ」と話す木村さん。しかし、小さくて良い物は大きい物を作るより苦労するし、その割に高く売れない。大変さを心底理解しているから発注にも気を遣う。職人を懸命におだてて、説得するのも木村さんの仕事なのです。

「大きいのは誰でもできるけれど、小さい物は君しかできないって作っていただいてます」。僕は批評家みたいに、ただ言うだけだから楽なんですと謙遜しながら、職人との信頼関係が必須のやりとり。職人を育て、護り、細やかな仕事の素晴らしさを伝え広める。「助六」の店主はこうして江戸特有の文化と町民の心を今に継いできたのだと感じ入りました。

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<昭和2年(1927年)出版の『江都二色(えどにしき)』(米山堂)は江戸小玩具を紹介。右は玩具「ネズミと猫」>

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<左は配色が美しい『ネズミ風車』。息をかけると、くるくる回る。5,300円。右は『ネズミと猫』。猫が追いかけるとネズミが隠れる仕掛け。4,800円。「江戸の町民は動くっていうのが楽しかったんでしょうね」と木村さんは昔の資料をもとに玩具を再現することもある。そのアイデアと注文に対して、付き合いのある職人は細部を省略せずに作ってくれる。数多く手がけても顔やかたちは同じ。同じ質でたくさん作ることができる作り手を木村さんは真のプロフェッショナルと認める>

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)
日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<今年の年賀切手の題材になった『笊(ざる)かぶり犬』は「助六」の定番玩具のひとつ。3,800円。小さな子どもが病気や怪我で亡くなることが多かった江戸時代に、親が子どもにお守りとして与えた玩具の最たる物。風邪をひいても「鼻づまりしないように」水の通りの良い笊をかぶせ、「できもの瘡(かさ)が小さくなりますように」とすぼめた傘を笊に載せた。また、犬という文字に竹かんむりをかぶせると「笑」という字に似ることから、「子どもには、いつも笑顔で元気に育って欲しい」という願いもこめられている>

シンプル・イズ・ベスト

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<稚気に満ちた動きで観る者をワクワクさせる軽妙な玩具『とんだりはねたり』。3,300円。右は「しめこの兎(うさぎ)」。兎を締める(殺す)ことで食べものをいただけると、「締める」と「しめた!」両方の意味と勢いが、簡素な構造と姿にこめられている。天明年間(1781~1789年)には雷門に定店が設けられるほど人気の浅草名物となった>

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)
日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)
日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<兎とスズメは最初期に誕生した『とんだりはねたり』。この助六人形のように、ピョンとひるがえると、かぶり物が飛んで、なかの顔が現れる仕組みはのちに考え出された>

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<助六人形がひるがえって傘が飛び、顔がさらされる>

江戸小玩具には腕の優れた職人仕事による物もあるけれど、全部自分で作れて、自分で直せる玩具もあると木村さんが教えてくれました。『とんだりはねたり』は江戸の町で大人気になった絡繰り(からくり)玩具。割竹の上に小さな張り子の人形が載り、割竹裏側の中心には糸を巻き付けた細い竹が留められています。この細い竹を反対側に引くと、バネの仕掛けで細い竹が跳ね上がり、人形が飛んだり、跳ねたりする躍動感あふれる動きを楽しめるというわけです。これは江戸の安永年間(1772~1781年)に浅草の人が発案。雷門のそばで売り出されたのが、この小玩具のはじめだとか。

「シンプル・イズ・ベスト」と木村さんが讃え、最も好きというのが紙製の玩具『ずぼんぼ』。発案は『とんだりはねたり』と同時期の安永年間。雷門近くの定店で一緒に売られていたそうです。現在、「助六」で売る虎と獅子は当時からある2種。小屏風をめぐらし、団扇(うちわ)で風を送り、踊らせて遊びます。4つの蹄(ひづめ)には、昔は隅田川で採れたしじみ貝が付き、腹側は落下傘のように風を受ける立体構造。このかたちと貝の重さから、さかさまに落としても、くるりと反転して足からふわりと着地します。仕組みには大人の知恵が働いていますが、玩具じたいは身近な素材で子供でも作れる単純なもの。その着想と玩具の動きにときめいた江戸町民の興奮を想像しつつ、私も1つ購入しました。

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<明治時代に入り中絶したが、明治10年(1878年)頃、好事家の要望で「助六」が復刻させた『すぼんぼ』2種。各2,000円。名称は後世の好事家が命名した>

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<蹄にしじみ貝が付く。風を受ける腹部は内側に折り畳んで運ぶこともできる>

日本唯一の江戸趣味小玩具店、仲見世「助六」で ここでしか買えない、縁起と質の良い浅草土産を買おう
(画像=『たびこふれ』より引用)

<宙返りしても元通りに着地。「怪我なく、ますます元気」。この絡繰りにも健康への願いがこめられている>