5. 実質化の意味とは?

本来、「実質化」とは、名目値の成長度合いに対して、物価の上昇分を割り引き、「数量的な」変化を確認するために行われるものだと思います。そのために、様々な取引から観測される価格の変動を「物価指数」に総合していき、名目値を物価指数で割る事で計算されるのが実質値ですね。

それでは、賃金を実質化するというのは、どういう意味なのでしょうか?

同じお給料だったとしても、物価が上がればそれだけ買えるものが少なくなります。賃金を受け取るのは、消費者でもある労働者です。

したがって、消費に関する物価指数で実質化する事で実質賃金を評価するという事が行われていると推測できますね。

もっともらしい物価指数として毎月勤労統計調査では「消費者物価指数」が、OECDでは「デフレータ(家計最終消費支出)」が用いられるのだと思います。

しかし、日本は名目値自体が停滞しているのに加え、物価も停滞し、更に物価指数間での乖離があります。このため、実質化に用いる指数によっては、実質値が下がっているようにも停滞しているようにも、上がっているようにすら見えるわけですね。

1人あたりGDPと平均給与についても、名目値では両者は停滞していますが、実質値は1人あたりGDPが成長していて、平均給与は停滞しています。これも、実質化の際の物価指数の違いによる影響も大きいですね。

1人あたりGDPはもちろんデフレータ(国内総生産)で実質化しているため、日本の場合は図7で見た通り消費者物価指数で実質化するよりも上振れする結果となります。

「実質値」の意味をよく理解したうえで、「基準年」に気を付ける事はもちろんですが、「どのような物価指数を用いているか」という事にも留意して統計データを眺めた方が良いように思います。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。

文・小川製作所/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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