非課税措置を利用する注意点
非課税の特例にはいくつかの要件があり、贈与を受けるタイミングや対象の住宅に居住する時期によっては、特例が受けられないケースもあります。住宅資金を援助されたのが自分だけである場合、遺産相続時にトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
特例を利用する前に確認しておくべき注意点を解説します。
贈与を受けるタイミングは居住前
非課税の特例を利用する際は「贈与を受けるタイミング」をしっかりと把握する必要があります。要件には、「贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること」という記載があります。
つまり、直系尊属からの贈与は「対象の住宅に居住する前」でなければならず、居住後に資金を取得した場合は、非課税の特例は適用されません。
既存住宅を取得する、または増改築をする場合も、住宅の引き渡し前であることが前提です。
特例を受けるには入居時期の期限がある
非課税の特例は「入居時期」にも注意が必要です。国税庁のウェブサイトには以下のような記載があります。
(6)贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。
(8)贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することまたは同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること。
引用:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁 贈与の翌年3月15日までに住宅を取得したうえで、その家屋に居住することが要件です。仮に居住が間に合わなくても、居住が確実であることが見込める場合は非課税の特例は適用されます。
ただし、「贈与を受けた年の翌年12月31日」がタイムリミットです。それまでに居住していない場合は、特例は適用となりません。したがって、贈与税の修正申告が必要となります。
相続時にトラブルになる場合がある
住宅資金の贈与は、身内が亡くなった際に「相続トラブル」の火種になる可能性があります。
特定の相続人に対する生前贈与は「特別受益」に該当します。特別受益とは、一部の相続人のみが故人(被相続人)から受け取った、特別な利益のことです。
高額な金銭を生前に贈与された相続人がいた場合、その分をカウントして遺産分割をしなければ、公平とはいえなくなってしまいます。特別受益を遺産に含めて相続分を計算することを「特別受益の持ち戻し」といいます。
住宅資金の贈与があった場合は、遺産をどう分割するかでもめる可能性がある点に留意しましょう。
住宅ローン控除との併用は可能
「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」とは、住宅ローンを組んで住宅を購入する際、一定額を所得税から控除する制度です。2022年度から新制度に移行し、2025年度末までは、毎年の住宅ローン残高の0.7%が13年間控除されます(中古住宅は10年間)。
「住宅ローン控除を受けると、非課税の特例が受けられないのでは?」と思うかもしれませんが、併用できないという規定はありません。
住宅ローン控除の計算の基になるのは、「住宅ローン等の年末残高の合計額」または「住宅取得等の対価の額」のいずれか少ない方です。
非課税の特例を受けた場合においては、「住宅取得等の対価の額から贈与税の非課税措置の適用を受ける金額を差し引いた金額」が、住宅取得等の対価とみなされます。非課税の特例を受けたことで、控除額が変わる点に注意しましょう。
例えば、実際の住宅取得等の対価が5,000万円、住宅取得資金の贈与額が1,000万円の場合、4,000万円が住宅取得等の対価となります。この額と、住宅ローン等の年末残高の合計額のいずれか少ない方が住宅ローン控除の計算の基礎となります。
非課税措置の申告方法
非課税の特例を受けるには、申告期限までに「贈与税の申告」を行います。申告の期限や必要書類、申告に関する注意点を確認しましょう。
贈与を受けた年の翌年に申告
住宅資金等の贈与を受けた場合、贈与税の申告書に非課税の特例の適用を受ける旨を記載して、必要書類と一緒に提出する必要があります。
贈与税の申告期限は「贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日」で、提出先は「納税地の所轄税務署」です。
郵便や信書便で税務署に送付する場合は、消印の日付が提出日となります。3月15日の消印があれば問題はありませんが、できるだけ早めに準備をするのが望ましいでしょう。
贈与税の申告方法と必要書類
贈与税の申告に必要な書類は、住宅の種類や特例を受ける要件によって異なります。詳しくは納税地の所轄税務署か国税庁のウェブサイトで確認しましょう。
以下は、新築または取得において、必ず提出しなければならない共通の書類です。贈与税の申告書に非課税の特例を受ける旨を記載したうえで、書類を添付して提出します。
- 受贈者の戸籍謄本
- 前年分の所得税に係る合計所得金額を証明する書類
- 住宅用家屋の登記事項証明書(贈与税の申告書に不動産番号を記載すれば省略可)
- 新築や取得の契約書の写し
- 個人番号カードなどの本人確認書類の写し
「贈与税の申告書」は、納税地の所轄税務署で入手するか、国税庁のウェブサイトでフォーマットをダウンロードしましょう。国税電子申告・納税システム「e-Tax(電子申告)」による申告も可能です。
参考:令和3年分贈与税の申告書等の様式一覧|国税庁
納税額が0円でも申告が必要
特例の適用で納税額が0円になる場合でも、贈与税の申告は必ず行いましょう。申告を忘れると特例が適用されず、贈与税が課税されてしまいます。
納税額が0円でも申告が必要な特例には、「配偶者の税額軽減(相続税)」や「小規模宅地等の特例(相続税)」などがあります。
夫婦がそれぞれの直系尊属から住宅取得資金を受け、かつ非課税の特例を利用したい場合は、個別に贈与税の申告書を作成します。