大阪と神戸の間を指す「阪神間」は、20世紀初め「阪神間モダニズム」と呼ばれることになる近代文化が芽生えたことで知られます。すでに一世紀が経ち戦災や震災で失われたものも少なくありませんが、いまだ当時の雰囲気を伝える場所も残っています。

今日はそんな阪神間に残る実業家の邸宅のうち同時期に建てられた旧山本家住宅と旧羽室家住宅を紹介しましょう。どちらも国の登録有形文化財に指定されています。

目次
重厚な門構えが人目をひく旧山本家住宅
茶室研究家による設計

重厚な門構えが人目をひく旧山本家住宅

緩やかな時が流れる阪神間の邸宅を見学しませんか?
(画像=<旧山本家住宅正門 ©Kanmuri Yuki>,『たびこふれ』より 引用)

兵庫県西宮市を北から南へと流れる夙川は、春ともなれば、長々と河川敷に並ぶ松の緑に桜が映える名所です。その周囲は閑静な住宅街。旧山本家住宅は、そういう界隈の夙川と並行する県道沿いに建っています。周囲に並ぶ住宅の中でも、装飾性に富んだ蝶番の木製門扉や石組による門柱が、大いに人目をひきます。

緩やかな時が流れる阪神間の邸宅を見学しませんか?
(画像=<旧山本家住宅玄関 ©Kanmuri Yuki>,『たびこふれ』より 引用)

石畳が導く玄関は、外壁の下方は石張りで、上方には飾り金具があり、内部にもタイルが多用されていて、第一印象は洋館の面持ちです。実際、玄関から二階へと続く階段の手すりの彫りといい、応接室のステンドグラス、客間や書斎の照明に大理石のマントルピースなど、玄関近くは"洋"の空間です。

緩やかな時が流れる阪神間の邸宅を見学しませんか?
(画像=<応接室 ©Kanmuri Yuki>,『たびこふれ』より 引用)

茶室研究家による設計

けれども見学を進めればすぐ気が付くように、同住宅全体から見ると、洋室はほんのわずかにすぎません。南側の庭園、中庭、いずれに面しても和室の居室や客間が多く並びます。案内してくださった係の方によれば、この和室の多さが幸いして、戦後GHQの接収を免れたのだそうです。床の間、引手、欄間、ふすま紙など、それぞれの和室の細かな意匠に、目からうろこの使い勝手の良い工夫など、実際に足を運んで発見してほしい点の多い建物です。

緩やかな時が流れる阪神間の邸宅を見学しませんか?
(画像=<茶の間 ©Kanmuri Yuki>,『たびこふれ』より 引用)

個人的に最も気に入ったのは、蔵の手前、裏庭と中庭に挟まれた「茶の間」です。一歩足を踏み入れるなり畳に座って寛ぎたくなるような心地よさを秘めた部屋でした。一見何気ないのに、よく見れば、網代天井に矢羽根編の水屋なども備わり、木材も凝っていて、茶の精神に通じるものを感じます。

それもそのはず、同邸を設計した岡田孝男は、茶室研究家としても知られた人なのです。若い時は、関西建築界の父と呼ばれる武田五一の助手を務め、昭和5年大阪・三越住宅建築部の専属設計技師に就任したのちは、茶室の研究も行い、その後の庭園や茶室設計に生かしました。もちろん、旧山本家住宅の庭に残る茶室も、岡田孝男設計によるものです。

緩やかな時が流れる阪神間の邸宅を見学しませんか?
(画像=<庭に建つお茶室 ©Kanmuri Yuki>,『たびこふれ』より 引用)