放射能から生き残るには腸内細菌が鍵のようです。
10月30日に『Science』に掲載された論文によれば、特定の腸内細菌が、致死的な放射線に対する耐性を授けていることが確認されたとのこと。
近年になって、腸内細菌が精神や肉体の様々な機能に深くかかわっていることがわかってきましたが、その範囲が放射線耐性にまで及んでいることが判明したのは、今回がはじめてです。
いったいどんな仕組みがはたらいているのでしょうか?
目次
致死的な放射線に生き残る「謎の10%」は長年無視されてきた
10%を調べると特殊な腸内細菌バランスを持っていた
致死的な放射線に生き残る「謎の10%」は長年無視されてきた

放射線の存在が確認されて以降、膨大な数の動物たちが放射線実験の対象になってきました。
致死的な量の放射線を浴びた動物たちの「ほとんど」は数日から数か月かけて苦しみながら死んでいきます。
しかし中には、長期にわたって生き延びる幸運な個体もいました。
マウスを用いた放射線実験では、致死的な放射線を浴びても、約10%ほどの個体が600日以上の長期にわったって生存することが知られています。
600日という期間はマウスの寿命(4年前後)からみるとかなり長い期間と言えます。
ですが多くの研究者たちは、これら幸運な個体が現れるのは単に確率の問題であると考え、誰も原因を調べようとはしませんでした。
しかしノースカロライナ大学のハオグオ氏らは、問題は単なる確率ではないと考えていました。
生き残った個体には、何らかの特質が秘められていると考えたからです。
そこでハオグオ氏らは、マウスの腸内細菌に目をつけマウスの糞を分析しました。
すると、長期間生存したマウス(エリートサバイバー)の腸内細菌バランスが、通常のマウスと大きく内容が異なっていることに気付いたのです。
しかしこの時点では、生き残ったマウスの腸内細菌が、放射線で変異しただけの可能性もありました。
10%を調べると特殊な腸内細菌バランスを持っていた

そこでハオグオ氏らは次に、生き残ったマウスの腸内細菌を複数のマウスに移植し、再び致死的な放射線を浴びせました。
結果、劇的な死亡率の低下と生存時間の延長が観察されました。
この結果を受けて、ハオグオ氏らは腸内細菌バランスと放射線耐性の強い関連性を確信します。
問題は、どの種類の菌が鍵となっているかです。
そこでハオグオ氏らは生存マウスから得られた腸内細菌を1つずつ単離し、通常マウスに移植して致死的放射線を浴びせる実験を根気強く続けました。
結果、20種ほどの菌が生存能力にかかわっていることが判明し、中でもラクノスピラ科として知られる細菌が、最も放射線耐性を高める効果があることが判明します。
ラクノスピラ科の細菌はウシやヒトの腸内にも生息することが知られている細菌群です。