今後、円の価値が高まりにくいと考える理由

これまでは、円安に振れても輸出企業の業績が上向き、日本経済が活性化すればいずれは円高に動くと考えられていました。

しかしながら、今回生じている円安は少し異なるようです。

現在の日本の貿易収支は財務省が公表資料しているとおり2011年より赤字に転じ2016年、2017年は若干プラスであったものの2018年、2019年は再び赤字に戻りました。2020年は3年ぶりに黒字転換したものの、2021年度、2022年速報値においても大幅な貿易赤字の状況が続いています。

これはマクロでみれば、日本はバブル経済崩壊後の失われた30年で、もはや輸出大国ではなく、輸入に頼らざるを得ない国へと変貌してしまったといっても過言ではありません。

一方、経済制裁を受けたロシアの通貨が下がらないのは、資源や食糧が豊富だからです。

ロシアは原油産出量世界第3位、小麦生産量世界第3位、トウモロコシ生産量世界第10位という国で、エネルギーと食糧に困ることがない国だと言われています。

いまや為替レートは、金利や通貨供給量の差だけで決まるのでなく、資源や食糧などに基づいた富や経済力(成長産業があれば経済力がある国と見なされます)、いわゆる「国力」で決まるようになったことは、ロシアや中国の法定通貨の価値が下がらないことからも明らかです。

では、今の日本はどうでしょうか? 30年続いた経済停滞、国際競争力を失いつつある産業、低い食料自給率と、短期間で国力を上向けることは難しいようにみえます。そうあって欲しくはないですが、今後の円の価値が高まる要素は非常に薄いと考えられます。

円安が続くとモノが手に入らなくなる?

円安が続くことで、身近な生活にはどのような影響が出るでしょうか?

円安によって輸入に頼るエネルギーや食料品、原材料の価格が上昇します。しかも、現在は新型コロナやウクライナ情勢の影響によって物流が滞り、国際的な物流コストも急上昇しています。モノの価格はますます上がりやすい状況にあるのです。

たとえば、原材料価格の高騰で通信、電気、ガスなどの料金が上がり、スマートフォンや外国車、ブランド品などの外国製品が手の届かないほど高くなるかもしれません。燃油サーチャージの高騰で海外旅行が高くなったり、海外へ行っても現地通貨と日本円との為替レート差により、関税がかからず安いと思っていたブランド品が想定以上に高く感じたりということが起こるでしょう。

新型コロナによる旅行者の制限が解除されれば、安くなった日本製品を外国人観光客や投資家が爆買いする現象も生じ、日本人ですら日本製の欲しい物が手に入りづらくなり、行きたかった料理店の予約が取れなくなるといった最悪のシナリオを考えなければなりません。