いまでは一般にひろく普及した「副業」。2021年には就業者の約12%が副業しているという推計もあり、副業はけっして珍しいものではなくなりました。

収入を増やせるのは魅力ですが、気になるのは税金のこと。副業でもできるだけ税負担を減らそうと、世の中には多くの節税テクニックが出回っています。

しかし国税庁から「副業の税金」をめぐる法解釈の改正案が出され、副業の節税対策が通用しなくなる可能性があることをご存知でしょうか。

今回は、SNSを中心に大きな批判を集めている改正案の内容と影響を考察していきます。

目次
批判殺到中の「所得税にまつわる改正案」の中身
「所得税にまつわる改正案」で何が変わる?

批判殺到中の「所得税にまつわる改正案」の中身

この改正案は、2022年8月1日に国税庁より発表されました。正式名称を“「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)”といい、分かりやすくいえば「法律の解釈を変えるつもりです」というお知らせです。

中身を見てみましょう。国税庁は今回の改正理由を以下のように述べています。

シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告をしていただくための環境づくりに努めているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題がありました。

(引用:国税庁)

かんたんにまとめると、「副業をする人が増えたけど、国税庁側で副業の所得をどう分類していいか紛らわしい!」ということ。

こうした背景から、以下の2点を改正するつもりだと通達しています。ここでは原文をほぼそのまま引用し、一部重要な部分を太字にしています。

  1. その他雑所得の範囲の明確化
    その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいいます。)の範囲に、譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除きます。)が含まれることを明確化します。
  2. 業務に係る雑所得の範囲の明確化
    業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。
    また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。

(引用:国税庁)

一つめに関しては、いままであいまいに決められていた「譲渡所得に分類されない資産の譲渡に関する所得」を「その他雑所得」として明確に定めるというもの。

これは、たとえばメルカリやヤフオクなどで商品を売買する副業で得た所得が、雑所得のなかでも「その他雑所得」という区分に該当することをハッキリさせる意味があると考えられます。

重要なのは二つめの後半。ここでは、「副業収入が300万円を超えない場合、原則は所得区分を雑所得と判断する」ということを言っています。

これだけ聞いても「なんのこっちゃ?」という感じですが、ざっくり述べると、いままで副業者が慣例としておこなってきた節税対策が封じられ、実質的な増税につながると考えていいでしょう。

「所得税にまつわる改正案」で何が変わる?

では、改正の影響はどんなところに出るのかを考えていきます。

これは読者のみなさんもご存知かもしれませんが、副業で得た所得が20万円を超えると「確定申告」が必要になりますよね。

確定申告にあたっては、自分の所得を国税庁が用意する10種類の所得区分のうち「どれにあてはまるか」を判断し、分類する必要がありました。

副業で得た所得をあてはめる場合、多かったのは「事業所得」と「雑所得」の2種類です。それぞれのおもな特徴を以下で表にします。

事業所得雑所得
あてはまる所得の特徴事業から生じる所得ほかの9種類のどれにもあてはまらない所得
青色申告特別控除×
損益通算×
純損失の繰越控除×
青色申告専従者給与×
30万円未満の少額減価償却資産特例×

細かくは解説しませんが、事業所得と雑所得を比較すると「事業所得」のほうがめちゃくちゃ有利なことはわかります。

なので、副業者はみんな副業で得た所得を「事業所得」として税務署に申告したいワケです。実際、事業所得で申告している方はかなり多いと思います。

ただ、事業所得と雑所得の区分について、これまでは「事業から生じた所得なのか、そうじゃないのか」で区別するしかなく、「じゃあ事業の定義ってなんなのよ?」と解釈が分かれる一因になっていました。

副業収入300万円以下の人は増税!? 批判殺到中の「所得税にまつわる改正案」を解説
(画像=▲副業の所得区分イメージ(現行制度)、『Workship MAGAZINE』より引用)

そこで今回の改正案が登場するわけです。

国税庁は「副業収入300万円以下の人の所得は、基本的に雑所得です!」と宣言。事業所得と雑所得のあいまいな線引きに「数値」という定量的な基準でケリをつけると同時に、大半の副業者が届かないであろう「300万円」の基準を設定したのでした。

そうなると困ってしまうのは、副業収入を事業所得で申告していた会社員のみなさんでしょう。この改正案がほんとうに採用されてしまえば、300万円以下の副業収入は雑所得として申告するしかなく、事業所得で得られる数々の特典が失われます。結果として税負担が増えるので、大騒ぎになっているわけです。

副業収入300万円以下の人は増税!? 批判殺到中の「所得税にまつわる改正案」を解説
(画像=▲副業の所得区分イメージ(新制度)、『Workship MAGAZINE』より引用)