私たち日本人にとって、いちばん身近な税金といえる「消費税」。身近なだけあって知名度はバツグンですが、じつは消費税のことをしっかり理解できている人は少なく、奥が深い税金ともいえます。
とくに、フリーランスや法人などの事業者にとって、消費税はとても重要な税金です。なぜなら、税金を「支払う」のは当然として、人によっては「もらえる(=収入になる)」ケースもあるから。
しかし、ありがたい側面があった消費税も、フリーランス界隈に衝撃をもたらした「インボイス制度」の導入で、位置づけが大きく変わろうとしていることをご存知でしょうか。
今回はフリーランスと消費税について、基本的なトピックや納付対象者、インボイス制度による影響などを見ていきます。
目次
意外と知らない「消費税」
小規模フリーランスには「消費税の免税特権」がある
意外と知らない「消費税」
大前提ですが、そもそも消費税とはどんな税金なのでしょうか。「買い物の際に10%上乗せされる税金」という答えも間違いではないのですが、十分ではありません。
正確に言うと、「商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課税される税」です。つまり、なにか形のあるモノを売らない場合も、「サービスの提供」があった場合は原則消費税が発生します。
そのため、たとえば「システム開発を行った」「Webデザインを行った」という場合も、自身のスキルによってサービスを提供したと判断され、消費税のかかる「取引」と認められます。フリーランスの取引のほとんどが消費税の課税対象取引なのです。
しかし消費税の一番やっかいな点は、実際に消費税を負担する人と、国に納税する人が異なること。こうした税金のことを、専門用語で「間接税」と呼びます。
間接税とはいったい何なのか。税金の負担者と納税者が同じな「直接税」と比較しながら考えてみます。
まず、直接税の場合は、税金を負担する人がそのまま納税者になり、自分のふところから税金を納めます(例:所得税、住民税など)。しかし間接税(消費税)の場合は、商品やサービスを購入した「消費者(企業含む)」が税金を払う一方、受け取った税金を納めるのは商品やサービスを提供した「事業者(フリーランス含む)」です。
したがってフリーランスの場合は、「消費税をクライアントから受け取り、国に納める」役割を担うことが多くなります。もちろん、日常生活で商品やサービスを購入した際に消費税を負担する「消費者」としての役割も残ります。
小規模フリーランスには「消費税の免税特権」がある
ここまでの内容から、フリーランスはクライアントから受け取った消費税を国に納める義務を負っていることが理解できたかと思います。しかし、「えっ、今まで消費税払ってなかった……。もしかして脱税しちゃった!?」と不安になる方がいるかもしれません。
そういう方には安心していただきたいのですが、クライアントから受け取った消費税を「国に納めなくてもOK!」と認められている事業者がいます。このような事業者は「免税事業者」と呼ばれ、フリーランスだと以下の条件をすべて満たす場合は、納税する必要がありません。
- 2年前の年間売上が1000万円以下
- 1年前の上半期での売上が1000万円以下
- 自主的に課税事業者になっていない
売上1000万円を稼げるフリーランスはほんの一握り。つまり、フリーランスのほとんどは免税事業者で、クライアントが負担した消費税を受け取って国に納めない状態になっています。受け取った消費税はそのままフリーランスが持っていていいので、実質的に「売上の10%増加」と変わらないのです。ここから、フリーランスが受け取った納税義務のない税金は「益税」と呼ばれます。
現状では「フリーランスへのプレゼント」以外の何物でもない免税事業者への消費税支払いですが、なぜクライアントはこんなことをするのか。理由は簡単で、たとえ支払い先が免税事業者でも、クライアントに課せられた「消費税の負担義務」が消えるわけではないから。
また、消費税の支払い額を受け取った消費税額と差し引きする「仕入税額控除」という作業ができるので、クライアントの丸損というわけでもないのです。
インボイス制度で変わる部分とは?
上で見た「消費税の免税制度」と大きくかかわるのが、2023年10月に本格施行が予定されている「インボイス制度」です。制度はきわめて複雑なのですが、影響だけをカンタンにまとめると「売上1000万円以下の小規模フリーランスも課税事業者となり、消費税を納める必要が出てくる可能性が高い」といえます。
参考までに解説しておくと、インボイス制度の施行後は先ほど触れた「仕入税額控除」を行うために、フリーランスからも「適格請求書(取引をしているフリーランスが国に登録された事業者である証の登録番号が記載された請求書)」を受け取る必要が生じます。
しかし、この適格請求書の発行は「課税事業者」にしか認められていないため、クライアントからの要求があれば小規模フリーランスも課税事業者への転換(=消費税の納付義務発生)が必要になり、益税がなくなると思われます。ただし免税制度がなくなるわけではないので、免税事業者のままでいる選択肢もあることは事実です。
課税事業者と免税事業者、どう判断したらいい?
インボイス制度施行後、小規模フリーランスが課税事業者になる場合と免税事業者のままでいる場合については、現状と比べればどちらもデメリットがあります。
【課税事業者になるデメリット】
- 消費税の計算、納付が必要
- 事業者登録、請求書の様式変更が必要
- 一度課税事業者になると、2年間は免税事業者に戻れない
【免税事業者のままでいるデメリット】
- 取引先が減る可能性がある
- 値引きを要求される可能性がある
- クライアントの事務負担を増やしてしまう
正直、どちらも多くのデメリットはありますが、どこかのタイミングで課税事業者になるしか実質的な選択肢はないようにも思えます。
ただ、2022年8月時点では、筆者が知る限り肝心のクライアント側もインボイス制度の導入後の対応を決めかねている状態。フリーランス側も急いで決断する必要はないでしょう。
制度の施行にあわせて課税事業者になるには、2023年の3月31日までに「適格請求書発行事業者」の登録申請をする必要があります。逆に言えば、それまではクライアントやほかのフリーランスの動きを静観できるともいえます。