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摩擦がなくても摩擦熱は生じていた?
摩擦熱の原因は「準粒子」だった
摩擦がなくても摩擦熱は生じていた?
摩擦抵抗消失の謎を解くために、アウティ氏らはまず最初に温度変化に着目しました。
実験環境は極低温状態にあるために、もしヘリウム3とワイヤーの間に摩擦熱が生じていれば、比較的容易に変化を観察できるからです。
結果、摩擦抵抗がないにもかかわらず、ヘリウム3の内部で移動するワイヤーは僅かな熱を発していたことが確認されました。
しかし、これは奇妙です。
実験結果が事実ならば、摩擦抵抗がないのに摩擦熱だけは生じていることになってしまいます。
摩擦熱の原因は「準粒子」だった
原因を解明するためにアウティ氏はワイヤーをヘリウム3の内部で様々な方法で動かし、僅かな熱変化を測定し続けました。
結果、摩擦と摩擦熱の不一致は古典物理学の常識の外、つまり量子力学的な解釈が必要であることが判明します。
ヘリウム3内部のワイヤーの周囲には、摩擦抵抗を打ち消す何らかの力学的指向性を持った粒子が生成されており、ワイヤーの移動によって生じる摩擦を吸収していたのです。
そのため、本来はワイヤーを引く計測器が感知するはずの機械的な抵抗が失われ、熱だけが観測される結果になったとのこと。
この摩擦を代替した謎の粒子として最有力候補となるのが、量子力学の中でも極めて特殊な「準粒子」だと考えられています。
準粒子は「超流動体の中で物体を引く」といった特定の条件にのみ発生する量子的性質を持った粒子であり、素粒子とは異なり特定条件から切り離して取り出すことはできません。
近年、この準粒子の発見が相次いでおり、N極かS極しかない単極磁気を持つものや、反粒子としての性質を持つマヨラナ粒子、さらには過去に記事にした1個の電子の3分の1の電荷を運ぶエニオンなど、「古典物理学では対応不可能な物理現象」を補完する存在となっています。
今回の、摩擦熱はあっても摩擦だけはない…といった不思議な現象も、準粒子の存在を念頭に置いて計算すると、説明することが可能になりました。