超流動体となったサラサラなヘリウムは異様な性質を持っています。

超流動体のヘリウムは粘性が0であるために、どんな小さな穴からも抜け出すだけでなく、ガラス容器の内部に入れても、勝手に壁をよじのぼって外にこぼれていくなど、忍者のような性質を数多く持ち合わせているのです。

しかし今回、より異様な性質が明らかになりました。

9月21日付けで『Nature communications』に掲載された論文によれば、超流動体となったヘリウムの内部を物体が移動しても、まるで真空の中を移動するように、摩擦や抵抗を受けないことが判明したのです。

空気中や水中を移動する物体は摩擦や抵抗を受けるため、動き続けるためには常に力を加えなければなりません。しかし、超流動体内部では力を加えなくても動き続けられるようです。

いったいどうしてなのでしょうか?

目次
そもそも超流動とは何か?
超流動体の内部で摩擦は存在しないことが判明!

そもそも超流動とは何か?

超流動体ヘリウム中の物体に”摩擦がはたらかない理由”が「準粒子」によって説明される!
(画像=超流動体が起こす毛細管現象 / 超流動体の壁のぼり現象は毛細管現象と原理が同じ/Credit:wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

超流動とは、一定の条件(極低温)で液体の粘性が消失する現象。超流動を示す代表的な物質として液体ヘリウムが知られています。

通常、ヘリウムは中性子2つ、陽子2つを原子核にした単原子ガスです。ヘリウムを吸入してから発声すると、甲高い音色の奇妙な声が出るドナルドダック効果などで有名な気体でしょう。

しかし、ヘリウムは絶対零度近くになると粘性が失われた超流動状態の液体となり、原子1個ぶんの穴からでも抜け出す、超サラサラな物質になります。

また超流動体となったヘリウムは、ヘリウム同士よりも他の分子との相互作用が大きいため、上の図のように、ガラス容器のツルツルした壁に対して、這い上がって勝手に零れていく現象が観察されるようになります。

この超流動体の奇妙さに多くの科学者たちが注目し、様々な実験が行われてきました。

そんなある日、イギリス・ランカスター大学のアウティ氏は「超流動体の中で物体を動かした場合、摩擦による抵抗は発生するのだろうか?」と疑問を持ちました。

超流動体の内部で摩擦は存在しないことが判明!

超流動体ヘリウム中の物体に”摩擦がはたらかない理由”が「準粒子」によって説明される!
(画像=超流動体の摩擦抵抗を調べる / 超流動体内部でワイヤーを動かしてみた/Credit:ナゾロジー、『ナゾロジー』より引用)

疑問を解消するために、アウティ氏がとった実験方法は極めてシンプルでした。

超流動体になることがわかっているヘリウム3の内部に、上の図のような小さなワイヤーを浸して動かしてみたのです。ちなみにヘリウム3とは通常のヘリウムから中性子が1つ失われた同位体を指します。

もし摩擦抵抗がなければ、ワイヤーを動かすのに必要な力は初速を与えるときにのみ生じるはずです。

そして精密な測定の結果、超流動状態が維持されている範囲において、ヘリウム3の内部でワイヤーは初速を与えれば、まるで真空のように全くの抵抗なく動くことが可能だったと分かりました。

アウティ氏の疑問は「超流動体の中では摩擦抵抗が発生しない」という形で解消されたのです。

しかし、なぜ超流動体の内部では摩擦が存在しないでしょうか?