身体づくりを効率よく行うためには何が必要なのか。このことについては経験論から科学的な研究に至るまで、様々なものが検証されてきた。中でもコルチゾールについては、多くのボディビルダーたちが強い関心を寄せている。いわゆる「コルチゾールは敵か? 味方か?」という話題だ。そもそも、どうして高強度のトレーニングを行うと、コルチゾールの体内での分泌が活発になってしまうのか。ここでは、コルチゾールが筋発達にどんなインパクトをもたらし、私たちはこのホルモンとどのように付き合っていけばいいのかを解説していきたい。
文:Verna Fisher 翻訳:ゴンズプロダクション
生きるためのコルチゾール
コルチゾールは、副腎皮質で作り出されるグルココルチコイド(糖質コルチコイド、ステロイドホルモン)である。身体の多くの細胞には、コルチゾールの受け皿となる受容体が存在していて、この受容体に結合することで様々な働きをすることがわかっている。
例えば、コルチゾールは体内のアドレナリンレベルを上昇させる。これは、コルチゾールがノルアドレナリンをアドレナリンに変換する酵素(PNMT:フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ)に働きかけるからだ。
体内でアドレナリンが上昇すると以下の事柄が起きる。
①エネルギーレベルの上昇
②集中力の向上
③心拍数の増加と血圧の上昇
④筋収縮による筋出力の増加
⑤血流量の増加(それによって筋肉やその他の組織に、活発に酸素が運搬される)
特に身体にストレスがかかると、副腎皮質からコルチゾールが分泌される。コルチゾールには、体内に貯蔵されているエネルギー源を利用しようとする働きがある。そのため、筋肉が分解されやすい環境になるのだ。
血糖値が下がりすぎているときなども、コルチゾールの分泌量は増加する。ここでのコルチゾールは、貯蔵されているグリコーゲンを血中に放出させ、血糖値を正常レベルまで高め、それを維持しようとするのだ。
「逃げるか戦うか」そのような究極の選択が求められるような状況に直面すると、コルチゾールのレベルは上昇する。究極の選択と言うのは大げさかもしれないが、要はストレスがかかることで、コルチゾールの分泌のスイッチがオンになるのだ。
そしてアドレナリンのレベルが増加し、前述した①~⑤のような反応が起きる。体はそれらの反応を起こすことでストレスに対処しようとするのだ。
何千年にも渡って人間が子孫を残してこられたのは、コルチゾールが必要に応じて体内で分泌され、それに呼応して様々な反応が起きたからなのだ。そう考えると、コルチゾールは決して迷惑な物質ではないと思えてくるはずだ。
高値のコルチゾール
ストレスは避けられないものだが、長期間続くものでなければ問題はない。避けたいのは長期にわたって強いストレスがかかり続ける状態だ。慢性的に強いストレスにさらされると、血液中に放出されるコルチゾールのレベルが常に高い状態で維持される。これは健康にとっては有害であり、以下のような懸念がある。
●高血糖
●骨密度の低下
●甲状腺機能の低下
●皮膚の変化(アザや紫色のストレッチマークができやすくなる)
●筋量の減少
●高血圧
●クッシング症候群(高血糖、喉の渇き、頻尿など)
低値のコルチゾール
コルチゾールが低値になるケースもあるが、あまり一般的ではない。コルチゾールが低値になるのは、たとえば副腎皮質の機能不全など、アジソン病を患っている場合に見られる症状だ。めまいがしたり、感情の起伏が激しかったり、倦怠感や筋力低下、体重減少、皮膚の黒ずみなどが見られるようなら、病院で診察を受けたほうがいいだろう。治療可能な状態なので心配する必要はないが、できるだけ早めに医師の診断を受けて治療しよう。
コルチゾールの変動
コルチゾールのレベルは一定に保たれているわけではなく、一日の中で変動している。一般的には、朝はコルチゾール値が高く、夜になると低値になる傾向がある。日中は仕事や学校、人間関係のストレスなどによって高値になることがあり、他にも運動や食事、体調などによってもコルチゾールは増減する。コルチゾールは免疫機能とも関連している。強いストレスを抱えている人が風邪などの感染症にかかりやすいのはそのためだ。コルチゾール値が高いと免疫機能が落ちるので、菌やウィルスなどに感染しやすくなるのである。
コルチゾールによるカタボリック反応
最近のアスリートなら、コルチゾールという言葉に対しては、真っ先に「カタボリック」を連想するのではないだろうか。テストステロンはアナボリックなホルモン、それに対してコルチゾールはカタボリックなホルモンであると理解されているようだ。ちなみに、カタボリックとは異化分解のことで「壊す」という意味を持っている。
ワークアウトを行っている最中はコルチゾールが優位になる。運動による負荷がストレスになるので、コルチゾール値が上昇するのだ。ワークアウト中にコルチゾールが分泌されると、筋中からエネルギー源が取り出され、それによってさらに運動を継続することが可能になる。
ワークアウトを終えた後は、積極的にタンパク質や炭水化物を摂取して、枯渇したエネルギー源を再貯蔵する。これによって身体はアナボリックな環境になり、筋発達が起きるのだ。
こうしてみると、テストステロンと同じようにコルチゾールもまた、筋発達反応を起こすために必要なホルモンだということがわかる。
それでも、ボディビルダーはコルチゾール値が高くなるのをできるだけ避けようとする。しかし、それも無理のないことかもしれない。
というのも、ワークアウト中、運動のためのエネルギー源を得るために、まずは血中の糖が消費され、次に筋中に蓄えられているグリコーゲンが消費されていく。やがてそれも枯渇してくると、副腎皮質からコルチゾールが大量に放出される。
ここで分泌されたコルチゾールの働きで筋中の組織が分解され、蓄えられていたアミノ酸が取り出される。このアミノ酸は肝臓に送られ、糖が作り出される。いわゆる糖新生が起きるのだ。
このシステムのおかげで血糖値が下がりすぎないように保つことができるのだ、ボディビルダーにとっては、筋肉からアミノ酸が取り出されるというのは我慢がならないのだ。
しかし、筋発達のスイッチを入れるためには、ワークアウトは必須だ。ワークアウトはやりたいがコルチゾール値は高めたくない。では、どうすればいいのだろうか。