コロナ禍で業績が悪化し、様々な特別融資で運転資金を手当てして生き延びた中小企業は多いだろう。返済にあたっては1~3年の据え置き期間を設けることもできるが、いざ返済が始まるまでには業績を立て直さなければならない。

創業経営者であればおそらく売り上げを増やすことには長けているだろうが、非常時の資金の調達には意外と疎かったりする。

しかし資金調達は、売り上げの拡大と同等に重要な仕事である。言うまでもないが、企業は赤字であっても資金が尽きなければ継続できるが、逆に黒字でも資金が不足すれば破綻してしまうのだ。

建築、小売、飲食、介護、不動産など多業種にわたり会社を経営する立場から、中小・零細企業が融資という手段を賢く使い、会社の資金繰りを安定させるために必要なことを考えたい。

中小・零細企業が融資を賢く使うための金融リテラシー (玉木 潤一郎)
(画像=Deagreez/iStock、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

事業の拡大に必要な資金を確保する

私たち中小企業が事業を拡大していく局面では、投資のための資金需要が発生する。そのときに重要なのが金融機関からの融資である。

実業経験のないコンサルタントなどは「借金は悪」と述べたりしているが、私たち経営者にとっては避けて通れない道である。

仮に拡大するための投資や運転資金が手許金で賄える状況だとしても、融資を利用した方がいいケースが中小企業には多い。手許金を投入すべきところに融資金を充当することで、万一事業が不調になった場合に追加融資が受けられなくとも、いきなり資金繰りに喘ぐことはない。

また事前に計画を立てて融資を申し込むのと、事業が不調で資金不足に陥ってから慌てて融資を申し込むのとでは、融資実行の難易度と経営者のストレスには大きな差が生じる。言うまでもなく、前者の方がはるかに容易で低ストレスなのである。

融資申し込みに経営者ができること

金融機関の融資判断は、売上や利益などの「業績」や創業年数などの「信用」にのみ左右されると考えている経営者は多いが、実際にはその判断に人が介在する限り、その時々で様々な要件に左右される。それは同時に、知っているだけで融資の実現に近づく工夫が可能にもなる。

まず、融資の申し込みには必ず金融機関の支店担当者が関わるが、その担当者の動きがもたらす影響は大きい。

まずは担当者に事業実現への熱意を共有してもらうためにも、融資申し込みの提出資料は金融機関任せにしてはならない。事業収益の実現性を補完する資料を、経営者自ら積極的に提案していくべきだ。

投資する事業から返済の原資となる収益が本当に得られるのか、その実現性は、支店の担当者から上長である支店長に説明してもらわなければならない。その理解を助けるためにも、質・量ともに充実した資料を提示していきたい。

また融資の額が、自社をよく知っている支店長決済の範囲ならともかく、本部の融資会議にまで上がる規模なら、支店と異なり会社との心理的な距離が遠い分だけさらに多くの資料が必要になる。

この場合にも担当者任せにすることなく、遠方にある融資本部に向けて経営者が自ら事業の説明を行うのと同等の理解が得られるような資料を(使われるかどうかはともかく)用意しなければならない。