「かけがえのない地球」の意味

現在では環境問題は小学生でも理解していますが、当時の日本には「環境」問題という概念や意識がありませんでした。国内ではもっぱら水俣病などの「公害」問題に人々の関心が集中していて、大きな社会問題になっていましたが、「環境」問題という概念は普及しておらず、「公害」問題と「環境」問題の関係もはっきり理解されていませんでした。

そこで、ストックホルム会議の準備委員会には、厚生省(現厚生労働省)や通産省(現経済産業省)などの公害問題担当者をかき集めて代表団を編成して出かけたのですが、欧米諸国の代表の意見を聞いていて、どうも様子がおかしいことにすぐ気が付きました。

日本でいう「公害」は、水俣病などの公害病がそうであるように、総じて局地的で病理的な捉え方であるのに対し、国際社会でいう「環境」問題は普遍的、国際的でポジティブな概念で、取り組み方もより一層包括的、ダイナミックです。ですから、いつまでも「公害」という狭い認識のままでは国際協力に乗り遅れ、行く行く不利な立場に立たされかねないという懸念や焦燥感を抱いたわけです。

そこで私は、いろいろ思案した結果、「公害から環境への意識革命」の必要性を痛感し、そのために、前述のように「かけがえのない地球」というフレーズを自ら考案し、全国に普及させました。また、同じ時期に、政府は、環境庁(現環境省)という役所の創設を閣議決定しましたが、その新官庁の名付け親は私です(原案では公害対策庁)。

「人間環境宣言」の採択

さて、そのようなさまざまな曲折を経てストックホルムで開催された世界最初の「国連人間環境会議」には全世界から113カ国が出席しました。日本からは大石武一環境庁長官を首席代表に、各方面の専門家からなる大型代表団が出席。私は代表団の中核メンバーとして参加しました。民間の代表として、九州の水俣病患者も数人参加し、注目されました。

2週間にわたるストックホルム会議では「人間環境」という全く新しい概念の下で、地球上の森羅万象ともいうべき多種多様な環境問題が初めて議論され、各国が状況を報告し、それに基づいてさまざまな解決策が提案され、具体的行動方針が採択されました。その中には、26項目からなる「人間環境宣言」も含まれています。これは現在の環境問題解決のための基本的理念と指針を述べたものです。

これらのことを詳述するときりがないので省略し、関心のある方はネットで調べていただくとして、ここでは一つだけ商業捕鯨禁止問題について簡単に触れ、そこから日本が今後の環境(気候変動)、エネルギー外交のために学ぶべき教訓を考えてみたいと思います。

(2022年6月2日付東愛知新聞令和つれづれ草より転載)


編集部より:この記事はエネルギー戦略研究会(EEE会議)の記事を転載させていただきました。オリジナル記事をご希望の方はエネルギー戦略研究会(EEE会議)代表:金子熊夫ウェブサイトをご覧ください。

文・エネルギー戦略研究会(EEE会議)/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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