CAの声がマーケット拡大の起爆剤に
しかし、どのようにマーケットを拡大していったのだろうか。反響が出始めたのはサクセスウォークを発売して数年後。「キャビンアテンダントの声が届き始めた」(細川氏)
キャビンアテンダントの仕事は立ち仕事だ。「今まで良いパンプスがなくてすごく悩んでいた。サクセスウォークを履いてみたところ、快適に仕事に集中できた」「出会えてうれしい」「お礼が言いたい」「もっとこのパンプスの存在を知ってもらいたい」そんな声もあったという。当時は、SNSの“つぶやき”ですぐに拡散するような時代ではなかったが、パンプスをはいて働く女性にターゲットを絞って販促を行ったところ、キャビンアテンダントに次ぎ、販売職や営業職、ホテル従業員といった立ち仕事や歩く時間が長い職業に就く女性に支持されるようになり、一年、また一年と働く女性が着実に店頭に足を運んでくれるようになった。
仕入れる側であるバイヤーへのプレゼンにも配慮した。バイヤーは必ずしも女性とは限らない。そこで、男性のバイヤーが試し履きができるよう26.5cmのメンズパンプスを作って実際に体験してもらうことで、「苦しんでいる女性にこのパンプスを届けましょう」と賛同してくれる男性バイヤーが増えていった。
購入率急増、若い人に売れる ワコールだけが気づいたある理由とは
一方、長年の課題は、20代から30代の若年女性にどう訴求していくかだった。サクセスウォークのパンプスは、1万5000円~2万5000円。若年女性には高価格帯の商品といえる。そんな中、就活や入社などの機会に合わせて、母親とともに店舗を訪れる若い女性が増えてきたという。
ここで活躍するのが、2017年に下着事業部から靴事業部に異動してきた細川氏だ。靴のことには詳しくなかったため、全国のショップを行脚し販売員の話を聞いてまわったという。すると、全国の各店舗から気がかりな情報が寄せられた。それは「足長と足囲のサイズはピッタリなのに、かかとがパカパカする」という意見だった。すぐに、共同研究している足の研究者に相談すると、現代の若い女性のかかとが、以前に比べて小さく変化している傾向にあることがわかった。かかとが小さい人向けにパンプスを販売してみたところ、想像以上に需要があったことから商品を拡充することになった。
さらに、足型自動計測機を製造しているDreamGP 社とかかとタイプを判定できる足型自動計測機を共同開発。それまで、足長、足囲、足幅はサクセスウォークの販売員が手で測定していたが、かかとは測定したことがなかった。2021年3月に、かかとまで測れる足型自動計測機「REAL FOOOT special customized for WACOAL(以下、REAL FOOT)」を得意先百貨店の3店舗に導入したところ、REAL FOOTで足を測定した人の68%がサクセスウォークの購入に至ったという。
「3Dで自分の足を可視化して見ることができるのが新鮮だったようだ。『足の幅が細いですね』など画像を見ながらご説明するとスムーズにご納得いただけた。REAL FOOTを導入した百貨店は年齢層高めと思っていたが、若い人が多く計測してくださった」(同)。結果として、REAL FOOTの体験者数は2022年3月までの1年間で4000人以上となった。