ロシア侵略へは現実主義で対処すべきだ
政治的リアリストは、国家の対外政策における「中庸」の重要性を主張してきました。古典的リアリストのハンス・モーゲンソー氏は、このことについて次のように説いています。
軍隊は対外政策の道具であり、主人ではない…対外政策の目的は…相手の死活的利益を害することなく、自己の死活的利益を守るために、必要な限り相手の意思を変化させることだ、挫くのではない…外交の主要目的は絶対敗北と絶対勝利を避けることだ。
( , Knopf, 1948, p. 557)。
リアリストの英知が戦争の破滅的結末を避けるために役に立つのであれば、関係各国はウクライナの絶対勝利とロシアの絶対敗北を避ける国政術を追求すべきということです。
これについてジャニス・グロス・スタイン氏(トロント大学)の次の指摘は、傾聴に値するのではないでしょうか。
最初に断固とした決意を示し…NATOがそのコミットメントを確立した後に、プーチンがエスカレーションを止まり交渉する誘因を作る、何らかの見返りを提供することに軸足を移すのだ…エスカレーションを制御する試みは宥和ではない。
こうした主張は、「親ロシア派」のレッテルを貼られて、ウクライナに寄り添わない「冷笑主義者」とか自由民主主義勢力の「裏切り者」と罵られるのは避けられません。しかしながら、正義と惨劇のジレンマに対するリアリズムの処方箋は、プーチンのウクライナでの野放しの悪事を処罰したい気持ちと、この戦争がより長引くことで失われるだろう命や軍事的エスカレーションのリスクを注意深く比較考慮することを求めています。
戦争の終末的大惨事を避ける道とは
暴力を介したバーゲニングにおける慎慮が導く答えは、外交問題評議会会長のリチャード・ハース氏の提言に集約されると思います。すなわち、
ホワイトハウスはオースチン国防長官のロシアを弱めるアメリカの目的から引き返すべきだ。目的はウクライナがロシアの侵略に抵抗するのを助けることだ。ロシアはプーチンの愚行でより弱くなるが、アメリカは西側を分断せず、ロシアのエスカレーションの確率を上げない、手段と目的を限定した戦争を追求すべきだ。
ということです。
そのためには、この戦争に深く関与するアメリカが率先して、エスカレーションを制御するあらゆる手立てを講じなければなりません。チャールズ・カプチャン氏(ジョージタウン大学)が強調するような実利的戦略をアメリカやNATO諸国は感情を抑制して考えるべきでしょう。
「完全な領土的主権の為に闘うキーウの権利はそうすることを戦略的に賢明にしない…戦略的プラグマティズムはキーウの野心を抑制するNATOとウクライナ間の率直な対話と『勝利』に至らない結果で手を打つことを請け合う」
という英知です。
戦略は激情ではありません。戦略研究の大家であるリチャード・ベッツ氏(コロンビア大学)は、戦略を成功させるヒントを次のように述べています。
戦略は選ばれた手段が目的に対して不十分であることが判明した時に失敗する。このことは間違った手段を選んでしまったためか、目的があまりに野心的であるか、あいまいであるために生じる。
戦争に賭ける利益とリスクをとる覚悟が戦争の帰趨に深刻な影響を与えるのであれば、ウクライナはもちろんのこと同国を助けるアメリカや西欧諸国、日本などは、それらに合致する実現可能で明確な目標を設定
するとともに、十分な慎慮にもとづく合目的的な行動をとるべきでしょう、それこそが戦争の終末的大惨事を避ける道ではないでしょうか。
編集部より:この記事は「野口和彦(県女)のブログへようこそ」2022年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「野口和彦(県女)のブログへようこそ」をご覧ください。
文・野口 和彦/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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