バリオン音響振動による距離の測定

突然難しい単語が出てきたように感じますが、現在遠方の宇宙を測定するもっとも高精度の距離測定方法がバリオン音響振動を利用したものです。

バリオンとは暗黒物質との対語のようなもので、目に見える通常物質(陽子、中性子などの原子核)のことを指しています。

宇宙誕生初期は非常にに高温高圧だったため、プラズマ状態のバリオンと光が一体となって運動していました。これらは宇宙の場所によって密度の差があり、その密度差が波を生みました。

空気は圧縮されると、その圧力を外へ逃がそうと膨張します。すると外側の空気が圧縮され、それを外側へ逃がそうと膨張します。

これを繰り返して圧力は空間を連鎖的に伝わっていきます。これを私たちは音波と呼びますが、初期宇宙でもプラズマと光が密度の差によって圧力の波紋(音波)を作っていました。

なのでこれをバリオン音響振動と呼びます。

やがて宇宙は高温高圧の状態から開放されて広がっていき、バリオンから解き放たれた光は宇宙マイクロ波背景放射として現在に至るまで宇宙全体に広がっています。

一方初期宇宙の密度差で生まれたバリオン音響振動は、プラズマの中を音速で伝わったので、5億光年を超えるサイズには波紋を広げることができません。

星までの距離の測り方って知っていますか?
(画像=バリオン音響振動の波紋。初期宇宙の密度のゆらぎから生じた波紋が、現在の銀河の密度分布とつながっている。 / Credit:KAVLI IPMU、『ナゾロジー』より引用)

このバリオン音響振動は、現在大きく広がって銀河の分布という形でその痕跡を見ることができます。そして、それは全て同じ5億光年という大きさを持っているのです。

近くにおいたものさしと、遠くにおいたものさしを見たとき、同じ目盛りでも遠近法によって長さが違って見えます。この原理を利用して、バリオン音響振動は、宇宙の距離を比較できるのです。

しかもこの目盛りは5億光年という幅があるので、かなり遠くでも見比べることができます。

こうした原理を使って、現在では非常に遠くの宇宙まで正確に距離を測定できるのです。

長い歴史の中で、人類は色んな方法で宇宙の距離を調べてきました。そして最新の測定法では、遠い宇宙の距離を1%の誤差で調べることもできるといいます。

ある天文学者は「今、ボクは自分の家の大きさよりも宇宙の大きさの方がよくわかっているんです」と冗談めかして言っています。

【編集注 2020.12.17 14:00】
タイトルを一部修正して再送しております。


参考文献

『宇宙創成 (新潮文庫)』


提供元・ナゾロジー

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