新しい天体が発見されたというニュースでは、必ず地球から○○光年とその天体との距離について触れられています。

しかし、望遠鏡に届く遠い星の光だけで、天文学者たちは一体どうやってその距離を測っているのでしょうか?

今回はそんな宇宙の距離の測り方について、解説していきます!

目次
星の本当の明るさと見かけの明るさとは?
星の温度と明るさの関係を使った距離測定

星の本当の明るさと見かけの明るさとは?

星までの距離の測り方って知っていますか?
(画像=ウィリアム・ハーシェルの肖像。イギリスの天文学者だがドイツ人であり、もともとの名前の発音はヴィルヘルム・ヘルシェル。 / Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

一番最初に、非常に遠い星との距離を調べようとしたのは18世紀の天文学者、イギリスのウィリアム・ハーシェルでした。

彼は自作の望遠鏡を使い、数百の星と地球との距離を調べ、人類初の宇宙の3次元地図を作り出そうとしたのです。

そこでハーシェルが考えたのは、「すべての星は、同じ光量(明るさ)で光っている」と仮定することでした。

「明るさは距離の二乗に反比例する」、これはハーシェルの時代でも知られていた事実です。

星の明るさが等しかった場合、見た目の明るさの違いはすべて距離の影響と考えることができました。

星までの距離の測り方って知っていますか?
(画像=同じ明るさなら、見かけの明るさを利用して距離を推定できる。 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

こうしてハーシェルは夜空でもっとも明るく見える星「シリウス」までの距離を「1シリオメートル」と定義して、これを基準に星との距離を調べ始めたのです。

例えばシリウスより9分の1の明るさの星は、シリウスの3倍距離が遠いと考えることができるので、3シリオメートルということになります。

もちろんハーシェルは星がすべて同じ明るさで輝くわけではなく、この測定は正確ではないとわかっていたでしょう。

しかし、この大雑把な仮定を用いることで、彼はこれまで未知であった宇宙の3次元的な形を明らかにしたのです。

星までの距離の測り方って知っていますか?
(画像=ウィリアム・ハーシェルの天の川地図。 / Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

彼はこの研究によって、星たちはまんべんなく夜空にあるのではなく、直径千シリオメートル、厚さ百シリオメートルのパンケーキ型の円盤状に地球を囲んでいるという事実を発見します。

これが人類が初めて天の川銀河の存在に気づいた瞬間でした。

ハーシェルは結局シリオメートルがどれほどの距離なのか知ることなくこの世を去りましたが、その後、フリードリヒ・ベッセルの功績によってシリウスと地球との距離が明らかになります。

ベッセルは、非常に詳細な観測によってはくちょう座61番星と地球との距離を三角法によって測定します。

三角法とは星をみたときの視差の度合いから対象との距離を調べる方法です。

ちなみに、腕を伸ばして人差し指を立てた時、右目と左目を交互に閉じてみると、指の位置がずれて見えるでしょう。そのずれの度合いを視差といいます。

ベッセルの観測では、地球が太陽を回ることで観測位置がずれること(年周視差)を利用して三角法の測定を行っています。

星までの距離の測り方って知っていますか?
(画像=年周視差(三角法)を使った距離の測定。 / Credit:国立天文台、『ナゾロジー』より引用)

はくちょう座61番星との距離がわかったので、ここから61番星とシリウスの明るさの違いを比較して、シリウスの距離も明らかにされたのです。

このときの距離は現在明らかになっているものよりかなり誤差がありましたが、こうして人類は銀河の大きさまでだいたい知ることができるようになったのです。

このときのハーシェルが使った「星の本当の明るさと見かけの明るさを比較する」という考え方は、今後も宇宙の距離測定において重要なポイントになってきます。

星の温度と明るさの関係を使った距離測定

ハーシェルは星本来の明るさが、星ごとにどのように異なるかはわかりませんでした。

しかし、正確な宇宙の距離測定を行うためには、星ごとの明るさの違いを理解しなければなりません。

この問題は星の色によって解決されました。

星の輝く色は、星の表面温度によって決まります。

そのため同じ色の星は、同じような温度の星だと考えられ、星の本来の明るさも同じくらいだと考えることができるのです。

たとえば、太陽と同じような色をした星が、ずっと遠くの空に暗く輝いているとしましょう。

本来であれば遠くに見える星と太陽は同じ色なので同じ明るさだと仮定できます。しかし、距離が遠いため暗く輝いて見えるのです。

つまり見かけの明るさがどれだけ暗くなっているかということを基準に、どれだけ遠くにあるか推定できるようになりました。

この星の温度(色)と明るさの比較については、ヘルツシュプルングとラッセルという学者によって作られたHR図によって示されています。

HR図は、横軸に星の表面温度(色)、縦軸に絶対等級をとった比較グラフです。

星までの距離の測り方って知っていますか?
(画像=HR図。 / Credit:s-yamaga.jp、『ナゾロジー』より引用)

絶対等級が星本来の明るさのことで、星を32.6光年(10パーセク)の距離に置いたときの明るさと定義されています。

太陽は地球のすぐ近くにある恒星なので、見た目の明るさは-27等級です。

しかし、明るさは距離の2乗に反比例して落ちていきます。

そのため太陽を32.6光年の位置に置いた場合、5等級の明るさとなり夜空ではほとんど目立たない星になってしまうのです。

一方、地球から見ても夜空で明るく輝いているリゲルやデネブなどは、絶対等級が-7等級近くあります。これだと地球から32.6光年の距離にあったとしても、地上に影ができるほど明るい星になることが分かります。

こうして星の色を使って、星の見かけの明るさと絶対等級がわかるようになり、星の距離を正確に推定できるようになったのです。