5日目:最終日もタイムリミットまで2ダイブを潜り倒す

あいにく最終日も曇り空だったが、強風と高波は落ち着いた。
連休の最終日はダイビング器材を乾かして荷造りし、少し観光してから午後の飛行機で帰る。というのがダイビング旅行の定番だが、小笠原諸島ではそうはいかない。

おがさわら丸が東京の竹芝へ向けて出発する15:30まで時間がたっぷりあるので、2ダイブできてしまうのだ。

もちろん、最終日はのんびりしたいのでパスする方もいる。
だが、もし…自分が潜っていない最終日に水中でクジラやイルカと遭遇してしまったら…

帰りの航海に後悔しかなくなってしまう。

実は、前日の1本目に現れた水中イルカ。私は遅れて最後にエントリーしたので見れていないのだ。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
スイムでは何度もイルカにアプローチできたが物足りない(画像=『オーシャナ』より 引用)

かすかな期待を胸に抱き、最終日も父島の南へ。イルカ率の高いポイントを目指す。初日に潜った大物・群れスポットの閂島(かんぬきじま)が11:30頃には潮の流れが落ち着くだろうとの読みで、まずは近くの「北一ツ岩」を潜った。

ここは小笠原諸島では珍しく、一面の白い砂地が広がるトロピカルな場所だ。もちろん流れがあるのでドリフトダイビングなのだが、ポツンと1つだけの根にキンメモドキが無数に群れる。

これだけでも十分に撮りごたえがあるのだが、多い時は20倍以上だという。しかもこの場所は今年見つけたばかりというから驚きだ。小笠原諸島のポテンシャルは計り知れない。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
根を覆うキンメモドキ。周囲にはスカシテンジクダイもいる(画像=『オーシャナ』より 引用)

1ダイブを終えてもまだ10:00前だ。ここで、もはや定番となったドルフィンスイムが始まる。6匹ほどのミナミハンドウイルカが交尾の練習をしていた。朝から破廉恥なやつらだ。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
ハートロックの下にイルカが集まっていた(画像=『オーシャナ』より 引用)

動画を撮っているといつも仲良く一緒にいる3匹が写りに来てくれるのだが、前日に会ったイルカと同じような気がした。何度か素潜り勝負を挑んだので覚えてくれたか?

さて、いよいよ最後のダイブだ。

初日に激流だった「閂ロック」は、前回潜った時と潮の流れが違っており、コースが逆向きになる。流れを避ける岩場や、ギンガメアジが溜まる場所、最後に安全停止をする場所などを確認し、エントリーした。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
閂ロックのギンガメアジ(画像=『オーシャナ』より 引用)

水深25mの深場にはギンガメアジが優雅に群れている。小さなマダラトビエイも5〜6枚が羽ばたくように泳いでいた。流れに逆らってギンガメアジを見上げると、上層にはイソマグロが30匹ほどの群れで現れた。いつもは水底にいるマダラエイも珍しく中層を泳いでいる。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
閂ロックのマダラエイ(画像=『オーシャナ』より 引用)

そして安全停止のために向かった浅場で…。

最後の最後に、さきほどドルフィンスイムで一緒に泳いでいたと思われる3匹のミナミハンドウイルカが、どこからともなくやってきたのだ。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
突然現れるミナミハンドウイルカ(画像=『オーシャナ』より 引用)

この時ばかりは撮ることを忘れ、スキューバダイビングならではの水中で長く続く時間をイルカと共に過ごさせてもらった。時間にして2〜3分だが、一瞬の出来事でもあり、スローモーションのように鮮明に思い出せる奇跡の時間でもあった。

6泊7日の長い船旅だが、今だからこそ行くべき世界自然遺産の島

金曜日の11:00に出発し、土曜日は午後から2ダイブ。日曜日から火曜日は3ダイブ×3日間で、水曜日に2ダイブをして15:00の便で東京へ戻る。合計13本の濃厚なダイビング旅だった。

根魚の群れの密集度、外洋に住む魚達の食物連鎖、クジラやイルカ、アジやマグロにサメなどの大物・群れ。私がこれまでに潜った場所で最も近いと感じたのは、国内の海ではなくモルディブの海だ。

モルディブのダイブサファリ(クルーズ)は7泊8日の15ダイブ。8日間の休暇は、10年に1回のリフレッシュ休暇や転職の合間くらいでしか機会がないだろう。

小笠原諸島も、通常5泊6日で6日間の休みを使うので気軽に行ける場所ではない。

しかし、行き帰りの2日間は飛行機と違って船内をある程度自由に動き回ることができる。
携帯電話の電波やインターネットは使えないものの、仕事のスキルアップや情報収集のために書籍や雑誌を読んでいるうちにあっという間に時間は過ぎるだろう。

船内には21:00まで解放されているラウンジや、24時間利用可能な小スペースがあるので、読書やオフラインで遊べるゲームがあれば退屈することはない。何も持っていなければ、売店で雑誌を買うこともできるし、たまには新聞を読んでみるのもいい。

私は数ヶ月間溜まっていた画像や動画の整理・編集の時間をたっぷり取ることができたし、帰路ではこの記事を書き進めたり、一緒に潜ったダイバー達と話をしたり、食事を共にしたりしているうちに気がつけば東京湾に着いていた。

日本国内24+3時間の船旅 小笠原諸島でドリフトダイビング13本勝負!
おがさわら丸の二等和室(画像=『オーシャナ』より 引用)

父島での滞在中も、15:00にはダイビングを終えて宿に戻っていたので、1日に3〜4時間は仕事を進めることができた。島には海底ケーブルで光回線もつながっており、インターネット速度は問題ない。むしろ島内に人間の数が少ないので回線が混雑せずに安定するほどだ。

ライターやフォトグラファー、デザイナーなど、場所を選ばずに仕事ができるのであればワーケーションという形で小笠原諸島でダイビングやドルフィンスイムをすることも可能ではないだろうか?

おがさわら丸もダイビングボートも、船に乗っている間はスマホがほとんど役に立たない。
それゆえに、ほぼ完全なデジタルデトックス状態で、人類共通の財産として保護された価値を有する大自然を満喫することができるのである。

感染症や欧州の危機、円安により海外旅行に行きづらい今、日本で最も遠い秘境へ潜りに行ってみてはいかがだろうか。