経済制裁の実態
このように中国が強大な経済力を持つようになると、例えば台湾有事の際などに、中国への経済制裁という手段にどこまで現実味はあるか、疑問が湧く。
そもそも、いま行われているウクライナ侵攻に関しての対ロシア制裁にしても、実際に制裁している国は欧米に加えて日本、韓国、オーストラリアなど、世界全体に占める割合は限定的だ:
欧米諸国は、中国やインドなども制裁に加わる様、要請をしたり、更にはロシアと取引する企業を制裁対象に加えるなどしているが、どこまで効果があるかは未知数だ。
現にいま、インドはロシアから石油を買おうとしていると報道されている。バレル当たり30ドルを値引きされているということだ。また中国は、これまでも欧米の経済制裁対象であったイランから石油を買っていたと伝えられているし、いまもロシアから買うことを止めようとはしていないようだ。
経済制裁を中国のような巨大国家にどこまで課することが出来るかは疑問であるし、仮にそうしたとしても効果のほども疑問である。
脱ロシアの後は脱中国、脱中東、脱・脱炭素
いまは欧米も日本も脱ロシアに奔走しているが、この次は何だろうか。
脱ロシアの次に最も重要なのは、脱炭素では無くて、「強大化する中国にどう立ち向かうか」、ということではないか。
日本は、脆弱性を減らし、国力を高めねばならない。
太陽光発電の大量導入にしろ、電気自動車シフトにしろ、脱炭素政策によって中国への依存を高めるのでは、ますます中国の日本への影響力が強くなる。これは日本の脆弱性となる。
加えて、脱炭素政策によって日本のエネルギーコストが上がれば、国際競争力を失った製造業は衰退し、日本経済は弱体化して、ますます中国に立ち向かう国力が無くなってゆく。
あるいは、脱ロシアの次に重要なのは、「脱中東」という、古くて新しい問題かもしれない。
かつての石油ショックの後、強い米国に依存する形で日本は守られてきた。だがいま、米国がかつてのように中東で軍事力を行使するかどうかは、おおいに疑問視されている。米国とサウジ・UAEの関係もぎくしゃくしている。そしてイランは周辺諸国に介入しサウジと対立している。
日本はいまなお、石油の9割と天然ガスの2割を中東から買っているが、これがいつ途絶するか予断出来ない状況だ。輸入先の多様化を図らねばいけない。
それなのに、「いまは輸出してね、でも脱炭素するので、すぐに要らなくなります」などと手前勝手な理屈を言っているのでは、どの国も相手にしてくれない。
資源を輸出する側としては長期的に安定して購入してくれない客には魅力がない。資源の開発にはインフラ建設のための莫大な初期投資が必要だからだ。、
こうしてみると、脱ロシアに次いで重要となるのは、脱中国、脱中東といった安全保障であり、これは、かなりの点において、脱・脱炭素となる。
もちろん、原子力発電の推進など、安全保障と両立する政策もある。だから脱・脱炭素とここで言っているのは、脱炭素政策の内容について、安全保障の観点からよく吟味して、再構築が必要ということだ。
日本のエネルギー政策は変わらねばならない。安全保障の観点から脱炭素を見なおす「脱・脱炭素」が必要だ。
文・杉山 大志/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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