皆さん「カツオノエボシ」という生物の名前を聞いたことがありますか?

見た目が特徴的で綺麗ですが、毒を持つ危険生物として有名ですね。

実は水族館でもよく見かけるあのふわふわ海中を漂う半透明の生物の仲間です。

今回は、そんなヘンテコ生物「カツオノエボシ」を紹介します。

目次
カツオノエボシってどんな生き物?
カツオノエボシの危険性

カツオノエボシってどんな生き物?

カツオノエボシは刺胞動物(しほうどうぶつ)、ヒドロ虫網、クラゲ目に属しています。

ヒドロ虫網に属さないクラゲもいますから「クラゲであって、クラゲでない」と言える存在です。

刺胞動物は、触手に毒針があり、相手を刺すことができます。

ヒドロ虫は、刺胞動物の中でも作りが単純で、身体はほぼ水(ギリシャ語でヒドロ)で構成されていますが、複数匹が集まって1つの個体を形成する事がよくあります。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=Three green hydra on water plant on black / credit: depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

しかし、カツオノエボシのクラゲらしくない形、いかにも毒々しい見た目、色。

海岸に打ち上げられていると、キレイな風船に見えること。

刺された動物が、毒で苦しむ事例があったとのこと。

などから「ヘンテコ危険生物」として取り上げられることが多くなっています。

こんなに変な生態を多く持つカツオノエボシですが、実はクラゲらしく単純な点もたくさんあるんです。

カツオノエボシの生態

カツオノエボシは、他のクラゲ類と同じように、自分自身で泳ぐ能力はほぼなく、風や波の流れに頼って移動します。

水族館で「クラゲ類は自由気ままそうで、良いな」と感じるのも、この“ただ身を任せて漂っている優雅な風貌”から来るものでしょう。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=優雅に泳ぐクラゲ / credit:イメージズラボ、『ナゾロジー』より引用)

ちなみに「水の中を漂っているもの」がプランクトンの定義だと、知っていましたか?

つまり、大きい身体のクラゲであっても、プランクトンの仲間です。

ほとんどのプランクトンは小さい微生物であるものの、「大きい身体の生物をプランクトンと呼んでも間違いではない!」ということを豆知識として覚えておくと面白いですね。

またカツオノエボシは、獲物を自分で捕獲し食べる能力はあります。

刺激を受けると毒針を発射し、小魚や甲殻類を触手で捕獲し、取り込むようにして食べるのです。

さらにカツオノエボシ一匹は、厳密には一匹ではありません!

カツオノエボシは「ヒドロ虫」がたくさん集まって1個体として構成されており、こういった状態を生物学的にはヒドロ虫の「群体」であると表現します。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=群体のイメージ / Credit: Free Photo、『ナゾロジー』より引用)

ヒドロ虫は、平均10cm程の胴や浮袋になる群体、平均10cm程の触手になる群体、栄養を取り込む群体、生殖器になる群体など様々な役割に分かれています。

役割が触手になったヒドロ虫だけ、なんだか忙しそうな気がしますね…。

カツオノエボシの特徴

プカプカ漂い、たまに相手を刺すだけのカツオノエボシですが、注目されることが多いのは、その見た目のインパクトからでしょう。

最大の特徴である「浮袋」の中身は、ほぼ二酸化炭素で、この浮き袋に頼って浮遊しています。

他のクラゲは丸いのに対し、三角形をしている点は個性的ですよね。

・この三角形が、和装の「烏帽子」に似ていること
・魚の「カツオ」と同時期に到来すること

以上のことからカツオノエボシと命名されました。そのまんまなネーミングなんです。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=烏帽子 / credit: AC、『ナゾロジー』より引用)

そんな優雅な見た目をしていますが、安易に触れると危険な目に合うことがあります。次は、その危険性に関して解説していきます。

カツオノエボシの危険性

なぜカツオノエボシは危険生物として知られているのでしょうか。その理由は

・猛毒であること
・行楽シーズンに到来すること
・見つけにくいこと

などが挙げられます。

カツオと同時期に到来しますが、その時期は初夏~秋です。

初夏の黒潮に乗って来るため、巷でも「旬のカツオのたたき!」なんて商品が出回ります。

そしてその時期は、よりによって海岸の行楽シーズンです。

よって、人々が刺される事が多くなり、注意喚起される事も多くなっていきました。

シーズンさえズレれば、こんなに煙たがられる事もなかったかもしれませんが、我々の空気は読んでくれなかったようですね。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=クラゲに刺された人のイラスト / credit: いらすとや、『ナゾロジー』より引用)

また、その身体は青透明色をしており、海の色と同化してしまいます。

台風後などに海岸に漂着した場合でも、まるでプラスチックゴミのように見えるのです。

このように「気づかれないことが多い」ため、誤って触れてしまい、その猛毒にさらされる事件が起きます。

カツオノエボシに刺激を与えると、触手の表面にある「刺胞」という毒針が発射されますが、この猛毒性が危険であるとされます。

では具体的にはどのような症状が起こるのでしょうか。

カツオノエボシの毒に見られる症状

【刺されてしまった場合】
・咳
・くしゃみ
・脱力感、不安感
・じんましん
・ミミズ腫れ、火ぶくれ、炎症
・皮膚壊死性
・燃えるような激痛
・嘔吐
・心拍数上昇
・心悸亢進
・心臓毒性、心臓発作
・ショック状態
・刺されたのが二度目だと、アナフィラキシーショックが起こり、呼吸困難、窒息死など

に見舞われます。

症状の程度は個人差がありますが、痺れるような激痛を感じる事が多いため「電気クラゲ」とも呼ばれるのですね。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=電気クラゲ / credit: AC、『ナゾロジー』より引用)

そんな毒の成分は、基本的にタンパク質性です。

タンパク質の細かいものをペプチド、もっと細かくしたものをアミノ酸と呼びますが、厳密にはペプチド毒性のようです。

また、複数の酵素(これもほぼタンパク質で構成されています)も混ざり合っています。

中でも注意すべきなのは「ヒプノトキシン」という毒です。

ギリシャ神話の眠り神ヒプノス+毒のあるタンパク物質「トキシン」から命名されたように、

この毒が注入された動物は、神経麻痺を起こした後、死亡してしまいます。

では体内に毒を入れてしまった際には、どのように対処すれば良いのでしょうか。

刺されたときの対処法、治療法

刺されてしまった場合は一般的に、

・患部を冷やす
・海水で洗い流す(真水は逆効果)
・落ち着いて陸にあがる
・素手ではなく、タオルや厚手の手袋をした状態で、触手を取り除く
・抗ヒスタミン剤の軟膏やステロイド外用薬の軟膏を塗布

することが有効です。

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=医者と患者 / credit: freepik、『ナゾロジー』より引用)

しかし、これらはあくまで応急処置であるため、その後速やかに医療機関を受診しましょう。

覚えておくべき!やってはいけない対処法

やると症状が悪化してしまい、逆効果になる対処法は、一般的に

・お酢をかける
・真水で洗い流す
・温める
・砂をかけて擦る

などです。

また、真水で洗ってしまうと浸透圧(濃度をどこでも均一にしようとする力)の差で、毒針から毒が真水に流れ出て体内に入ってきてしまいます。

海水や塩水で洗うならば、むしろOKです!

海の危険生物カツオノエボシの魅力|刺されたときの対処法も紹介
(画像=水を掛ける女性 / credit: AC、『ナゾロジー』より引用)

温めると、炎症反応が進行し、温熱刺激で刺胞が活性化してしまいます。

毒針を抜いた後の患部であれば、40℃程度のお湯に晒すと、タンパク質の熱変性により痛みがやわらぎますが「棘が残っているか判断できない」「温度が厳密に測れない」といった状況下では、安易にトライしない方が賢明でしょう。

ここまで来ると「擦る行為」がご法度な理由も、お分かりでしょうか?

刺激を与えてしまい、毒針が皮膚により深く刺さるためです。