エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドや電気自動車など、技術はめまぐるしい勢いで進歩しています。もちろん今回紹介するミッションもそうです。ポルシェの現行ラインナップのほぼすべてのモデルで、選択可能なセミAT、PDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)は、本格的なデュアルクラッチトランスミッションであり、そのシフト操作は100分の数秒以内ですべての操作が完了するといいます。

MTモード付きATのティプトロニック

楽チン?スポーティ?ポルシェのセミAT、PDKの魅力とは?
(画像=『CarMe』より 引用)

ポルシェが初めてATを911に導入したのは、1968年のことでした。4速MTをベースにしたそのミッションは、スポルトマチックと呼ばれるもので、1978年までラインナップされていました。このスポルトマチックは、クラッチを操作すると電気的信号が流れ、クラッチを切る機構がついており、いわば2ペダルMTの元祖です。

その後、ポルシェは1990年にZF製のMTモード付きAT、ティプトロニックを採用した911(964)を発表します。これをきっかけに世のメーカーは、MTモード付きのATを普及し始めました。

しかし、これはトルコン式のATがベースで、ATのP-R-N-D-2-1といった、シフトパターンの前進ギア部分を別な場所に設けただけ、と言えなくもありませんでした。ティプトロニックのシフトチェンジは、シフトを前に倒すとシフトアップ、後ろに倒すとシフトダウンというもの。

ところが、レーシングカーで使われていたシーケンシャルシフトは、後ろに倒すとシフトアップ、前に倒すとシフトダウン。つまり加速中は、リアに向かって重力が働くのでドライバーが引く動作になっており、減速時はその逆と、理にかなった動作になっているわけです。それなのに、ポルシェはなぜ反対の動作にしてしまったのか…謎ですね。

このティプトロニックの影響もあって、追従したほとんどモデルでのATのシフトレバーは、前がアップ、後ろがダウンになっていました。ちなみにポルシェも、ミッションがPDKとなった後も、最近まで前がアップ、後ろがダウンでした。※718ボクスター、991ポルシェでは、アップ/ダウンが逆になっています。

メカニズムはル・マンのマシンと同じ

楽チン?スポーティ?ポルシェのセミAT、PDKの魅力とは?
(画像=『CarMe』より 引用)

いち早く市販車にデュアルクラッチシステムを採用したのは、VWアウディグループのDSGでした。

これはペダルこそないものの、れっきとしたクラッチシステムを持つトランスミッションで、クラッチを切ったりつないだりするのは機械が行いますが、構造はMTとさほど変わらないものです。

そのデュアルクラッチトランスミッションは、1984年にポルシェがWEC(世界耐久選手権)でテストをしています。マシンは、ワークスの956で、すでにPDKと呼ばれていました。つまりポルシェこそセミATの先駆者だったのです。

ちなみに、この時代、ポルシェはル・マン4連覇など、耐久レースで勝つためにさまざまな新しい機構を投入しています。