1億年よりさらに昔のホタルは赤色の光を放っていたようです。
12月2日に『Science Advances』に掲載された論文によれば、現代に生きるホタルの発光遺伝子を計算科学により先祖返りさせた結果、1億年前のホタルの光が緑色であったことが判明したとのこと。
さらに、ホタルの先祖がホタル科を形成する以前、無名の「光る虫」であった時代には、赤色に光っていたことも判明しました。
赤から緑、そして現代の黄色やオレンジへと変化してきたホタルの光。
色の変化の過程には、いったいどんな秘密が隠されていたのでしょうか?
目次
ホタルの光のバリエーションは酵素の微妙な違い
進化過程を逆算する
ホタルの光のバリエーションは酵素の微妙な違い
ホタルの仲間は世界で約2000種類あるとされ、発光する色は緑・黄緑・黄色・オレンジと様々です。
しかし全ての発光現象は、天使ルシファーの名前を語源にした「ルシフェリン」および「ルシフェラーゼ」と呼ばれる2種類の物質によって行われています。
ただルシフェリンの形状は全てのホタルで同一。
そのため色の違いをうみだしているのは、ルシフェラーゼと言われる酵素の微妙な構造の違いになっています。
一方、近年になって琥珀の中に閉じ込められた1億年前(白亜紀)のホタルが発見されました。
この恐竜時代のホタルの体のつくりを調べた結果、既に発光していたことが示されました。
ただ残念なことに、1億年という時間はルシフェラーゼのDNAやタンパク質をバラバラに分解するには十分な時間であったようで、古代のホタルの光を化石から探る試みはかないませんでした。
しかし、日本の中部大学の研究者たちは意外な方法で、古代のホタルの色の再現にチャレンジしました。
ホタルの先祖は、いったいどんな色で輝いていたのでしょうか?
進化過程を逆算する
日本の研究者たちが着目したのは、現代のホタルの多様な発光酵素の構造でした。
現代の様々な色は、上の図が示すように、最古のホタルが持っていた発光酵素から長い時間をかけて系統樹が枝分かれしながら変化(進化)を行った結果うまれたものです。
研究者たちはこの構造変化を、コンピュータを使って系統樹の葉先から根元に向けて逆算することを思いつきました。
この逆算は「先祖配列復元」と呼ばれる手法(計算科学)であり、進化を研究する分野では古代のヘモグロビンやインスリンなどの構造を復元する手段として使われています。
研究者たちがこの手法を用いて、系統樹を限界まで遡った結果、1億年よりも前の最も古い発光酵素の構造を逆算することに成功します。
得られた計算結果を元に発光酵素(ルシフェラーゼ)を合成すると、意外な色が現れました。
研究者たちが計算結果を元に最古の発光酵素を合成して発光させたところ、意外なことに弱々しい「赤い光」を放ったのです。
ただこの時代(1億年よりさらに前)、ホタルの先祖たちは、まだホタル科として独立していませんでした。
この事実は、現存する全てのホタルが「無名の赤く光る虫」から進化したことを意味します。
生物の世界では赤色は自身に毒があることを示す警告色として知られており、光ることで目立つリスクを相殺していたと考えられます。
ですが時間が経過して1億年前になると状況が変わります。
「無名の赤く光る虫」たちの勢力が拡大して「ホタル科」として独立し事実上、最古のホタルが誕生したのです。
研究者たちがこの時期(1億年前)のホタルたちの発光酵素を調べると、興味深いことに「赤色」から「深い緑色」を発する構造へと変化していました。
なぜ、ホタルたちは光の色を変えたのでしょうか?
原因は、恐竜時代に台頭してきた、私たち哺乳類にありました。