面倒な時間がご褒美の時間に変わっていく
マッシュスタイルラボがファッション業界に参入したのは2005年のこと。人気レディスファッションブランド「スナイデル」で事業を軌道に乗せ、2008年リーマンショックの最中にジェラート ピケは誕生した。
リーマンショックとコロナショックの2度も世界不況を経験。厳しい状況下でも成長を続けるブランドの強さはどこにあるのか。
「文化的な要素が強いと思っている。今でこそ当たり前になったルームウエアだが、そもそも部屋着でおしゃれを楽しむというカルチャーが日本にはなかった」(豊山氏)
思い出されるのは豊山氏が幼少期に見た洋画だという。「主人公の少女がすてきなパジャマを着て、寝るまでの時間を”自分時間として”楽しんでいた。今日は何を着る?という感じで輝いて見えた」(同)
ところがジェラート ピケが生まれる2008年以前の日本は、オン・オフの概念すらなかった。「朝から晩まで働いてヘトヘトになって部屋着に着替えるのも億劫といった風潮だった」(同)。パジャマパーティーという欧米文化がある。お気に入りのパジャマを着て友人宅に集合してお泊まり会をする文化だ。ここでのパジャマは、ファッションとしても機能する。
ファッショナブルなルームウエアの誕生は、疲れて帰宅して着替える億劫な時間を、「今夜は何着る?」というご褒美時間に変えた。「ジェラート ピケは『人間の幸福度』に着目したブランド。肌に一番近い存在で温かくてやさしくて、着る人を笑顔にする。金額に値するもしくはそれ以上の幸福時間を提供し、長くご愛用いただける商品をお届けしている」 (同)
寝具ではなくファッション売場で

ただし、ルームウエアを楽しむという文化がすぐに定着したわけではなく、段階を踏む必要があった。
当時のパジャマは、「寝具」に分類されていた。百貨店の寝具売場は上層階にあることが多い。若い女性が日常的に立ち寄る場所ではなかったし、パジャマは寝具売場の隅っこに数セット置いてある程度だった。「人は毎日必ず眠るのに、隅に追いやられているような感覚だった。そこでパジャマを『お部屋の中のファッション』と位置づけ、売場を寝具フロアではなく、おしゃれ感度の高い女性が集まるファッションフロアで販売し、パジャマの概念を変えていった」(豊中氏)
ルームウエアという新ジャンルを確立させた現在は、駅ビルや百貨店などのファッションフロアに出店し、トレンドに敏感な女性で賑わっている。