森尾友宏厚労省部会長の発言「医療者側が意識」と新論文
9年ぶりHPVワクチン勧奨再開 接種後の症状、医療者側の理解進む:朝日新聞デジタル
9年前の違い、医療者の理解進む
「ワクチンを接種したかどうかにかかわらず、体の反応として全身の痛みが起こることを医療者側が意識するようになった。そこが9年前との大きな違いだ」。厚労省の副反応検討部会長を務める森尾友宏・東京医科歯科大教授(小児科)は、研究班の報告についてそう話す。部会は昨年11月、積極的勧奨の再開を決めた。多様な症状に対し、ものごとのとらえ方を変え、行動を変えていく「認知行動療法」によって、一定の改善効果があることもわかった。
一方、こうしたことがわかるまでに時間を要し、多様な症状を訴える人に対し、9年前には適切な医療を提供できなかった。これを教訓とし、医療者側は多様な症状や対策について勉強会などで学んできたという。
森尾友宏厚労省部会長の発言の「ワクチンを接種したかどうかにかかわらず、体の反応として全身の痛みが起こることを医療者側が意識するようになった」が「医療者側の理解が進んだ」の元となっているようです。
朝日新聞は他の記事で森尾氏へのインタビュー記事をUPしています。
HPVワクチン勧奨再開、9年の間にあった議論 厚労省部会長に聞く:朝日新聞デジタル
部会で深まった三つの議論
――勧奨再開に至った経緯を教えてください。ここ数年で大きく三つの点で議論が深まりました。
一つ目は、有効性や安全性に関する論文が国内外から報告され、まとまったデータとして示せるようになったこと。二つ目は、市民に対して正確な情報提供が進んだこと。三つ目は、多様な症状が出た後の認知行動療法などについて、多くの医療機関で理解が深まったことです。
――一つ目の有効性や安全性については、どこまで証明されていますか。
20年にスウェーデンからHPVワクチンが子宮頸(けい)がんを抑えるという結果が報告されました。それまでは、がんになる前の段階の病変を減らすという報告はありましたが、がんそのものも抑えるということがわかりました。デンマークや英国でも同様の結果が報告されています。
安全性についても、接種後の長期疲労や、免疫が誤って自分を攻撃してしまう自己免疫疾患が多いのではないか、という指摘がありましたが、関連性がないという論文が海外から出ています。
大阪大の祖父江友孝教授を班長とした厚労省研究班が国内の疫学調査をしました。ワクチンを接種していない人でも全身の痛みや多様な症状を訴える人がいるというデータを報告し、論文になっています。
2013年当時から、HPVワクチンの接種後の重篤な副反応と騒がれているものは因果関係のあるものではなく、政策として積極的勧奨をするものとしての安全性には問題が無い、という医療従事者の指摘が多かったですが、それをさらに補強ないし別の観点から支持する高レベルエビデンスが揃ってきた、ということです。
祖父江らのワクチン非接種者らの種々の症状の研究や名古屋スタディ
既に、いわゆる「名古屋スタディ」と呼ばれる大規模調査論文が2018年に示されていました。
No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study
Sadao Suzuki⁎ and Akihiro Hosono
(論文タイトル和訳:日本の若い女性におけるHPVワクチンと報告されたワクチン接種後の症状との間に関連性はない:名古屋研究の結果)
また、祖父江友孝教授らの論文というのは以下です。朝日新聞の記事では、尾身茂氏の祖父江氏への助言で研究が始まったとする内容がありました。
A Nationwide Epidemiological Survey of Adolescent Patients With Diverse Symptoms Similar to Those Following Human Papillomavirus Vaccination: Background Prevalence and Incidence for Considering Vaccine Safety in Japan
この中でも、以下指摘されています。
Safety of HPV vaccines is well documented by numerous studies that compared vaccinated and unvaccinated individuals and targeted well-known reactions or diseases that were already recognized in medical practice.
HPVワクチン接種の安全性は、既存の医療現場でよく知られていた反応と疾病を対象とした接種者と非接種者を比較した膨大な研究によって十分に証明されています。
ただ、「ワクチン接種後の種々の症状」が、接種しない人の間でも共通して発生するものなのかどうかという点についての研究が貧弱であったため、それを明らかにするために本研究を行ったとしています。