目次
背景美術における“納得の”ニッチ需要
個性は模倣から生まれる
背景美術における“納得の”ニッチ需要
歯車ラプト:
あと、背景イラストってそもそも描いている人が少ない分野だと思うんですよ。
少年B:
ニッチなお仕事だなぁと思ってインタビューのオファーをさせていただいたわけですが、やっぱりそうなんですね……。
歯車ラプト:
たとえばコミケの創作ジャンルでは最近「背景イラスト島(コーナー)」みたいなスペースができ始めているんですけど、サークル数でいうとは20サークルくらいしかないんですよね。あれだけ大きくて広い会場なのに、ですよ。キャラクターを描いている人の何十分の1、何百分の1しかいないんです。
あえてニッチな領域を狙っていたわけではないんですが、好きで描いていたら、たまたま競合が少ない分野でした。そういう点で、お仕事を頂くにはとてもラッキーだったかもしれません。

歯車ラプト:
もちろんキャラクターを描きたいという気持ちもありましたし、最初のころは「私、キャラクターも描けるので、次の仕事はよかったら是非……」といった営業メールもしていたのですが、先方からは「ラプトさんにはぜひまた背景をお願いします!」って(笑)。
少年B:
キャラクター描ける人はいっぱいいるから、と。
歯車ラプト:
たぶんそうなんだと思います。Pixivなどのランキングをみても大半がキャラクターイラストですものね。なので最近は「キャラクター描けます」って営業はほとんどしなくなりましたね。
少年B:
あと、お仕事の中で「VTuberの背景」とありましたが、これはどうやって……?

歯車ラプト:
それは自分発信でいただいた仕事です。個人の方を中心に、これまで50件以上の案件を担当させて頂きました。VTuberって、みんなキャラクターはイラストレーターに発注をしてしっかりと作り込んでいるのに、生放送の時に使用されている背景はフリー素材だったり、デフォルトだったり……。個人Vtuberが流行りだした当時は、どの放送に行っても同じ背景しか見ないなと感じた時期があったんですよ。
そこで、2つ思ったことがあったんです。ひとつは「キャラクターを作り込んで自分の世界観を持っているのに、背景はそうじゃないのはもったいない」。そして、もうひとつは「きっとVTuberの背景イラストは誰に頼めばいいのか、そこがみんなわからないんじゃないか」でした。
少年B:
確かに……! そこに需要を見つけ出したんですね。

歯車ラプト:
そこで、Twitterで「個人VTuberの背景を描きますよ」「あなたしか持てない世界観を一緒に作りませんか」と発信をしたら、1枚6万円という価格設定にも関わらず、ものすごく反響がありまして。個人にとっては高い値段かなとも思ったのですが。
少年B:
確かに、6万円はかんたんには出せない金額ですね……! フリーランスの単価設定は難しいとも聞きますが、その価格にした理由はなぜですか?
歯車ラプト:
企業様から受けている値段よりは安く……。ただ、安くしすぎると、ご依頼が多数来た場合は自分が捌ききれなくなると思ったので、悩みに悩んで6万円という数字に決めました。
この値段でしたらなかなか簡単には手を出せない、けど本気で活動する人にとっては許せるラインかなと思いまして。私自身もパンクすることなく、企業様の仕事とのバランスも取れるのではないかと思いました。
少年B:
そういう意図があったのですね! 結果はいかがでしたか?
歯車ラプト:
いま現在では月に2~3枚という、想定通りのご依頼を頂けており、正直驚いています。「これは必要だろうな」と感じたポイントを狙ってツイートをしたら、カチっとお仕事に繋がったといった流れですね。
個性は模倣から生まれる
少年B:
ぶっちゃけ、会社員と比べてフリーランスという働きかたは合っていると思いますか?
歯車ラプト:
作品全体で、僕が担当できる部分は少ないんですけど、その担当部分は明確ですよね。だから「これは自分が制作したものだ」とはっきり実感できるし、公言できる。そういう意味で、会社にいた頃よりも楽しいし、性に合っていると思います。
ただ「フリーになりたかったから独立した」というよりも、「会社が辛くて、脱出したらたまたま合ってた」と言ったほうが正確かもしれません。
少年B:
「監督やコーチをするよりも、プレイヤーでいたい方」には向いているのかもしれませんね。
歯車ラプト:
そうですね。私の場合、もし今後あらためて会社員になるとしても、大手ではなくベンチャーで、自分で制作できる範囲の広いところがいいのかもな、と思っております。

少年B:
ラプトさんは「自分の好きなものを描いていたらたまたまニッチな領域で活躍できた」とおっしゃいますが、そもそも自分の個性や好きなことがわからないって人も多いと思うんですよ。そういう人はどうしたらいいんでしょう。
歯車ラプト:
自分も正直「自分自身の個性」って言われてもまだよくわかってないんです。たとえば自分の絵は厚塗りで、リアルタッチで、光と影を意識している部分が特徴的かもしれない。けど「歯車ラプトといえばコレ!」って言い切れるものは正直まだないと思っています。それでも仕事はできておりますし、自分の絵を好きだと言ってくれるファンの方々も沢山おります。
だから、自分探しをするよりも、好きなことをコツコツ続けるのがいいかなと思います。個性を身につけようとやっきになるよりも、好きなことを毎日コツコツ続ける。これがとても大事なんじゃないかなと。嫌いなことはそもそも続かないじゃないですか。

少年B:
確かに、イヤなことをずっと続けるのは難しいですよね……。
歯車ラプト:
だから、モチベーションを高めるためには、「その作業が常に楽しいと思える環境を作ること」。たとえば、身近に褒めてくれる人を作るようにするといいと思います。どういった流れであれ、楽しんでやり続けていれば、それが自然と力になり、個性にもなっていく。
少年B:
楽しむための環境が大事、ということですね。
歯車ラプト:
あとは、絵においては自分がいいと思う作品をたくさん模写することでしょうか。それを長期的に続けると、模写だとしても自分の中で「ここは個人的にはこうした方が好きだな」という思いがじわりじわりと滲み出てくるんですよね。
その状態で自主制作をすると、自然と「自分の好き」が詰まった作品ができあがるはずです。それが「その人らしさ」であり、「個性」なんじゃないかなと。そのためにはやはり「継続する事」が大事だし、毎日続ける前提として「楽しむこと」が最重要だと思っています。
少年B:
それ、わたしが文章に対して思っていることと同じです……! 模倣から個性って出てくるんですよね。

歯車ラプト:
僕も大学生のころ、個性が欲しいと悩んでいました。そんなとき、教授がこう言ってくれたんですよね。「そんなことに悩んでないで、とりあえず10年描き続けなさい。10年やったら自然とあなたの絵になってますよ」と。すごく腑に落ちたというか「なるほどなぁ」と感じました。
そうして10年経ったとき、ふわりと「自分らしい絵」はこれかなぁと思えるようにはなりました。ただ、最初に述べたように、まだ明確には分かってないんですけどね。だから、駆け出しの人は焦る必要はないと思います。とくに、イラストはすぐに上手くなるものでもないですし、続けていればそのうち個性が出てくるはずです。
少年B:
ありがとうございます。逆に、一定の実力は持ってるけど、突き抜けたいと思っている人に対してはどうですか?
歯車ラプト:
いますぐに仕事が欲しいという場合なら、ちゃんと営業をして、企業様に「自分という存在」を覚えてもらえるチャンスを増やしたほうがいいと思います。
でも、何もないまま営業をしても意味がないので、しっかりと自主制作をして「自分の顔になるような成果物」をちゃんと作ることが大事じゃないかなと思います。自分もまだまだ発展途上なので、継続が大事ですよね。

【記事のまとめ】
- 背景美術イラストレーターは「想像力」が大切な仕事
- 好きなものを描き続けていたら、たまたま競合が少ない世界だった
- 担当者に「忘れられない」ために、こまめに連絡を取る
- 個性を出すためには続けること、続けるためには好きであることが大事
- 個性は模倣から生まれてくる
(執筆:少年B 編集:北村有)
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