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「硬派な自分」を出したくて、背景ばかり描いていた
フリーランス1年目のイラストレーター営業術
「硬派な自分」を出したくて、背景ばかり描いていた
少年B:
歯車ラプトさんは、なぜ背景を描くようになったんですか?
歯車ラプト:
子どもの頃から風景を見るのが好きでして、旅先では風景のポストカードをよく買ってもらってました。
アニメや映画を見るようになってからも、人間や動物などのキャラクターよりも背景に目がいってしまって。とくにSFやファンタジーが好きで、宇宙船内の壁や乗り物、配線などに注目していました。だから「絵を描くぞ」と思ったときも、自然と背景から入ったというかたちですね。

少年B:
小さなころからお好きだったんですね! 一般的にはキャラクターから入る人が多そうなイメージですが、人間を描きたいと思ったことはないんですか?
歯車ラプト:
もちろんあります。とくに大学時代の頃は「可愛らしい女の子を描きたい!」と思ってたんですが……。なんていうか、当時は「萌えキャラを描く自分が恥ずかしい」と思ってしまって、「そういう絵を描く自分」にすごく抵抗があったんです。
どうにかして「私は硬派なんだよ」といった面を出したくて、風景とか静物とかを沢山描いておりました。
少年B:
見られかたを気にする部分……。なんか、ちょっと分かるような気がします。

歯車ラプト:
それに、もともと高校生までは教科書の隅に棒人間を描いてるぐらいだったんですよ。図画工作や美術の授業は元々好きだったんですが、イラストをちゃんと学んだことはなくて。ちゃんと絵を描き始めたのは、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科に進学することを決めてからなんです。
少年B:
わたしの友達のイラストレーターさんだと、中高時代から描いている人も多いんですが、ラプトさんはけっこうスタートが遅かったんですね。
歯車ラプト:
そうだと思います。その影響で静物デッサンから絵を学び始めた事もあり、今でも「線画を描く」って感覚が自分のなかになくて……。それは、若干後悔している部分ではあります。
大学に入学するための勉強は静物デッサンと平面構成で、個人的にはデッサンが物凄く大好きでした。描いてて特に楽しかったモチーフは有機物より無機物で、とくに金属質の物を描くのは大好きでしたね。大学入学後はSNS……当時はまだTwitterは一般的ではなかったので、よくpixivやmixiにイラストを投稿していました。

少年B:
mixiなつかしい! 金属を描くのが好きだったとのことですが、具体的にはどんなものを?
歯車ラプト:
電信柱とか…機械式時計のムーブメントと言われる内部構造の歯車などを沢山描いていました。特に歯車を沢山描くようになった時期がありまして、大学1年生の頃に絵を描く資料集めのため本屋巡りをしていたら「機械式時計の構造」にまつわる本に出会いまして。
それがすごく美しかったので「歯車」というモチーフが好きになったんですよね。そこから、一時期はずっと空間ではなく、正面から歯車の構造が組み合わさる絵ばかり描くようになっていました。

少年B:
自身のお名前に「歯車」と入れるぐらいですしね……! 他にはどのようなものを描いていましたか?
歯車ラプト:
大学2年になって、資料集めのために本屋巡りをしている時に「Doll Snaps」という海外製ドールの写真集を見つけまして、海外製ドールのその可愛さに一目ぼれしました。ここで「可愛い女の子を描く自分が恥ずかしい」と思っていた感情が砕けたというか、一瞬でその気持ちが吹き飛んだんですよね。そこからは背景イラストの量は少なくなり、狂ったようにドールの女の子の絵をひたすら描いていました。
少年B:
おお、キャラクターを描いていた時期もあったんですね!
歯車ラプト:
はい。ただ、キャラクターを描いていたら、やっぱりだんだん「そのキャラがどこに住んでいるのか」「どんな世界にいるのか」を描きたくなってきて、また背景に意識がフォーカスするようになりました。
そうすると、だんだんとキャラクター中心の絵ではなくなり、人物の比率が小さくなっていって、物語の一瞬を切り抜いたような絵を沢山描くようになっていきました。こうして、また主軸が背景に戻っていった感じです。
フリーランス1年目のイラストレーター営業術
少年B:
大学卒業後は就職されたそうですが、そこからどうやって背景美術イラストレーターになったんですか?
歯車ラプト:
大学を卒業後、ゲーム会社に就職して、ちょうど3年間グラフィッカーをしていました。大手でしたし、会社自体も好きだったんですが……思ってた以上に「制作」よりも「管理」の仕事が多かったんです。
イラストを描くのも、90%以上は外注さんが作成してくれて、自分の仕事はいただいたイラストや3Dモデルをゲームに落とし込むための調整作業だけ。なので「これは自分の関わった作品と言えるのだろうか?」と思ってしまったんですよね。

少年B:
やりがいが感じられなかったんですね。
歯車ラプト:
残業や休日出勤もそれなりにあったので、個人で絵を描く時間もだんだんなくなっていって。気づいたら、家に帰ったら寝るだけといった状況になってしまいました。自分の想いを発散させる場がなくなってしまったんです。
その結果、体を壊してしまい、会社を辞めてしまいました。ただ、会社のことはいまでも好きですし、どちらかというと「私が会社に適応できなかった」といった気持ちのほうが強いですね。

少年B:
なるほど……。その後はどのような生活を?
歯車ラプト:
会社をやめたのが3月だったので、その年は残りの9ヶ月間、一切働かずに自主制作をしていました。コミケなどのイベントに出たり、SNSにイラストをアップしたりして、個人で絵を描くという活動に専念していたんです。
そして、次の年からイラストレーターとして活動するようになりました。

少年B:
ああ、自分がライターを始めたときとまったく同じです……! 充電期間って必要ですよね。年が明けてからはどのような活動をされたんですか?
歯車ラプト:
まず自分の作品をまとめて簡単に見られるWebサイトを作りました。そして前年から引き続き、イラストをSNSに上げ続ける。
あとは様々なイラストレーターの仕事仲介サイトに沢山登録しました。登録したら担当さんがついてくれて「今後担当します◯◯です」といったメールが来ることが多いんです。だいたいの方はそこで満足してしまい、その後仕事が来るまで待つ。悪く言ってしまうと放置してしまうのですが、私は積極的に担当さんにメールを送っていました。
少年B:
えっ、いったいどんなメールを?

歯車ラプト:
「今、手が空いてます」って連絡をしたり、「こんな作品を作りました」ってイラストを送ったり……。担当さんも複数のイラストレーターを見ているわけですし、毎日新しい人が登録するので、そのまま待っていたら忘れられてしまうな、と思ったんです。
だから、いかに担当者さんに「忘れられないか」が大事かなと思って。「手が空いている私がここにいますよ!」といったアピールをし続けた結果「雰囲気が合いそうな案件がありました」と仕事を紹介してもらえて。受けた仕事の納期をしっかりと守り、丁寧に描いていたら、そのうちに他の会社にも紹介していただけるようになっていきました。
少年B:
そのお仕事は、やはり背景イラストだったんでしょうか。
歯車ラプト:
そうですね。なぜ背景イラストの仕事が来たかというと、やっぱりWebサイトにそればかりアップしていたからだと思います。

少年B:
そのあと、どれくらいの単価でお仕事を受けられるようになったんですか?
歯車ラプト:
仕事の単価としてはADVゲームのシナリオ背景1枚と仮定すると、個人様向けだとだいたい1枚6万円、企業様向けだと1枚8万?9万円が多いでしょうか。もちろん、描くものの内容によっても価格は上下します。実績として発表したときに自分の知名度がより広がると判断すれば、安く受けることもあります。
こちらは「実績公開が積もり積もって、次の企業からの受注に繋がる」という考えで、自分の営業費用ぶんの原稿料を下げているイメージですね。イラストレーターの仕事は時価だと考えているので、私に限らず、スケジュールなどを含めた条件のもとで制作のお値段は変わってくるのかなと思っています。