社会経済活動の活性化と二酸化炭素の排出増大は正相関する

ただし、歴年の『環境白書』が強調してきたように、景気動向にエネルギー事情は左右されるから、この数年のコロナ禍における社会経済活動自粛や働き方改革に直結するオンライン業務の増大や、2022年2月24日からのロシアによるウクライナ侵略戦争後に予想される世界的な景気停滞によっても、二酸化炭素の排出量は減少する注6)。

逆にいえば、「特集」で頻用された「経済発展」や「地域活性化」や「地域振興」を課題として経済活動を盛んにすれば、必ず二酸化炭素の排出量は増大する。

8年後の2030年に基準年比で35%の削減目標を示した知事(道庁)は、何をどのように実行するのか。

一方で社会経済活動を活性化させると二酸化炭素の排出量は増大するという正比例の「産業活動の法則」を無視したら、おそらくそれは成功しない。だからと言って、都合の悪い社会現象やデータを無視して、出発点で目的に沿ったデータだけを並べるのでは誤りの原因になる。この「産業活動の法則」にどのように挑戦するか。

「特集」で繰り返された「高いハードル」(:3、:9)に向けて「野心的な挑戦」(:20)を行うには、バランスの取れた合理的な思考法こそがカギになる。

後編では、私なりのバランスを基準にして、「脱炭素社会」形成論の素材を提供してみたい。

「脱炭素社会」形成論の素材

その際の論点は、以下の3項目である。

昨年のCOP26で顕著に認められたように、「二酸化炭素地球温暖化対策」のために再生可能エネルギーには莫大な投資をする先進資本主義各国が競合するが、主体間では同床異夢の状態にある。

(1)資本の立場・・・・・・再生可能エネルギーの使用価値は非常に高い→洋上風力発電への積極的投資→剰余価値の増大

(2)政府・自治体の立場・・・・・・地球温暖化防止のために「脱炭素社会」を標榜する立場から、国家費用による再生可能エネルギーの装置との交換価値が高い

(3)国内消費者の立場……再生可能エネルギー装置での発電は供給面での不安定性が強く、発電単価も高く、自然の恒常性を壊し、景観を破壊するために、使用価値は低い。再生可能エネルギー装置を国家や自治体が購入するという「交換価値」に乏しい

これらのバランスがどうすれば可能になるか。

後編では、いくつかの補助線を用意して、社会学の観点から探ってみよう。

(後編に続く)

注1)いわゆる「二進も三進もいかない」状態を示すものである。

注2)これは、北海道開発協会が発行する月刊誌『開発こうほう』のうち、年2回の「地域経済レポート特集号」の別名である。編集協力者は元釧路公立大学学長で、現在は北海道観光振興機構会長の小磯修二氏である。

注3)「ウクライナ戦争」(War in Ukraine)による影響は各方面に及ぶが、エネルギー問題ではとりわけドイツの態度変容が著しい。ロシアから直結した1230㎞のパイプライン「ノルドストリーム2」が中止され、破産手続きに入った。それとともに、ドイツが宣言した2022年の原発廃止、2030年までの石炭火力廃止、残りは「再エネ」という2021年11月のCOP26でも強調されたエネルギー転換政策は暗礁に乗り上げたままである。

注4)変化する価値判断基準については金子(2009、38-40)を参照してほしい。

注5)この10年間で、北海道の先人が苦労して敷設した鉄道のうち、赤字路線の多くが廃止され、留萌線(深川―留萌)や日高線(鵡川―様似)をはじめ、廃止路線の大半がバス輸送に転換された。しかし「鉄道は地球に優しい」はずなのに、「赤字幅が大きい」、「収益改善の見込みがない」などの理由で、「脱炭素」を掲げた道庁もまた赤字路線の廃止に賛成してきた。そして、新幹線の札幌延伸に伴い、120年の歴史をもつ「函館線長万部-小樽間」もまたバス転換を前提として、鉄路は廃線が確実になった。なかでも余市―小樽間の朝の通勤・通学時間帯では、乗客約550人のバスによる大量輸送が必然となる。550人をピストン郵送するバスによる二酸化炭素の排出量と鉄道による一括輸送を比較して、どちらが「脱炭素社会」にとってふさわしいかという発想を道庁はしなかったのであろう。

注6)ウクライナ国土でのロシア軍が連日の攻撃に使用する戦車やミサイルや攻撃ヘリに戦闘機、そして軍用トラックなどが排出する二酸化炭素は膨大な量になるはずだが、「脱炭素社会」の観点からは論じられないままである。

【参照文献】

Harvey,D,2014.Seventeen Contradictions and the End of Capitalism, Profile Books.(=2017 大屋定晴ほか訳『資本主義の終焉』作品社)
金子勇,2009,『社会分析』ミネルヴァ書房.
金子勇,2021-22,「二酸化炭素地球温暖化と脱炭素社会の機能分析」(国際環境経済研究所WEB7回連載).
金子勇,2022,「『脱炭素と気候変動』の理論と限界」(アゴラ言論プラットフォームWEB8回連載).
Weber,M.,1924,Wirtschaftsgeschichte.Abriss der universalen Sozial und Wirtschaftsgeschichte,(=1954-1955 黒正巌・青山秀夫訳『一般社会経済史要論』(上下)岩波書店).

文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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