同様の出来事は繰り返されている
突然、古い話で恐縮ですが2006年にサッカー界で起こった衝撃的な出来事をご記憶でしょうか?ドイツワールドカップ決勝で、当時のフランス代表の中心選手、ジネディーヌ・ジダン氏が対戦していたイタリア代表マルコ・マテラッツィ氏を頭突きでふっ飛ばし一発退場となりました。
大会後の引退を表明していたジダン氏にとって最後の公式戦、そして最大の大舞台でこのようなことが起こるなんて…誰も想像できなかった展開です。さらにジダン氏は人格者として名高い選手でしたので、世界に与えた衝撃はウィル・スミス氏の比ではなかったと言えるでしょう。
ジダン氏はなぜこのような蛮行に出たのでしょうか?
答えはマテラッツィ氏がジダン氏の姉を性的に侮辱したからです。
プロサッカーでは勝利を追求するあまり敵選手に反則同然の激しいチャージをしたり言葉の暴力で挑発したりという非紳士的な行為がよく起こります。
もちろん非紳士的な行為はジャッジの取締の対象です。しかし、すべてを取り締まることは難しく、実態としてはこれもプロサッカーの一部であるかのように扱われています。
(私はこの実態は好きではありませんが)
とは言え、大切な親族を侮辱することは大きな心の痛みを生み出します。強い心の痛みは私たちの脳に備わった自己防衛システムを作動させてしまいます。
こうなると良識を備えたウィル・スミス氏も人格者として名高いジネディーヌ・ジダン氏も、自己防衛システムをアクティングアウトして暴力へと駆り立てられてしまうのです。
クリス・ロック氏は、ウィル・スミス氏はどうするべきだったのか?
みなさんも子ども時代に自分の悪口を言われるよりも、親や兄弟、親族を悪く言われることで深く傷ついた経験はありませんか?ウィル・スミス氏のように妻が脱毛症で苦しんでいることをよく知っていたら、なおさら心を深くえぐられたような思いだったことでしょう。
暴力は許されるものではありませんが、誰かを侮辱する(その意図がなかったとしても)ということは、その侮辱で本人以上に傷つく人がいることを決して忘れてはなりません。
クリス・ロック氏は場を盛り上げようとした結果だったかもしれませんが、人の容姿をネタにするときはより慎重になるべきでした。せめて、ウィル・スミス氏が怒りの表情で迫ってきたときに先に察して謝っていればウィル・スミス氏の行動も違ったかもしれません(発達障害とされる方々はこれが苦手とされているのですが)。
一方でウィル・スミス氏も自分は「ヒト」という生き物で、自己防衛システムが作動すると暴力的になり得ることを忘れるべきではありませんでした。ジダン氏の出来事から学んでいただいていたら、何かが違ったでしょう。