損益が黒字でも企業は倒産する

企業再生を専門にしている私が最初に分析するのが、キャッシュフローだ。中小企業であれば資金繰りである。企業は、いくら赤字が続いても金があれば倒産しない。だから、かなりの数の非上場アパレルは不良資産である在庫をバランスシートに隠し、不良在庫を時価評価しないのだ。こうすれば、損益計算書に時価評価された在庫の損失(通常は売上原価に含める)が出てこないので、一見利益がでているようにいえる。しかし、このように臭いものに蓋を閉めるやりかたは、いずれ行き詰まる。最近では、損益計算書に「補助金収入」などという勘定科目が見られるようになった。非上場企業で十分なキャッシュがあれば、むしろ赤字の方が節税効果が働く。それなのに、損益計算書に「補助金」の科目がでてくることは、相当「コロナにやられた」ことを証明できるか、貸借対照表の「貯金」がほとんどなくなり借入もマックスに達している状況かのいずれかではないだろうか。

IPO、新株発行(いずれもエクイティ・ファイナンス)、社債発行(デットファイナンス)、そして保有資産の売却を除けば、企業が資金を調達する方法は大きく2つしか無い。一つは、銀行からの借入。もう一つは、事業会社やファンドへの株式売却による経営権の譲渡だ。資本主義経済では、基本的には「救済型の貸出」「救済型の企業買収」はない。
「基本的に」といったのは、デット(借入)についていえば、現実には与信をオーバーした債権回収が危機になり、債権主がファンドに頼み荒療治を行ったあとで株式の引き受けを約束するケースがあるためだ。これは、今後ますます増えるだろう。救済型の企業買収については、上場して調子にのった社長が、乱脈経営の結果経営危機に陥った昔の友人に頼まれ、なんの事業シナジーもない、単なる救済を目的とした買収を行うケースなどがある。
上場企業は投資家のものだから、このような勝手な買収はしてはならないのだが、現実にはあちこちで起きている。日本の株式市場、上場企業においてガバナンスが正常に働いていないからだ。ちなみに、これらは「理屈上ありえる話」ではなく、「現実にあった、ある」話である。

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5000億円規模の価値を、どこに見出しているのか?

「そごう・西武」のゆくえとファンド による企業買収のロジックとは
(画像=2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon 、『DCSオンライン』より引用)

さて、そごう・西武の話に戻す。各種報道によると、セブン&アイ・ホールディングスは、2005年のそごう・西武買収(当時の社名はミレニアムリテイリング)に使った金が約2000億円と同程度の金額で引受先を探しているという。

以前、私は企業買収を「現金製造機」に例えて解説した。1年間に1万円の現金を生み出す「現金製造機」があり、5年間は壊れずに使えるとしよう(その後は壊れるかもしれない)。つまり5年間で総額5万円が得られるわけだが、毎年得られる「1万円」を現在価値に割り引いた金額の総額が現金製造機の現在価値となる。このように現在の企業価値を算定するのが企業価値算定である。

このそごう・西武は21年2月期業績で、売上高が4300億円で、当期純損失が▲172億円。営業利益が▲67億円で減価償却費が74億円だから簡易計算のEBITDAは+7億円となり、前年度のEBITDAが+87億円であることを考えれば、年平均衰退率を乗じれば事業価値はほぼゼロだ。また、そごう・西武は、21年2月期時点で3000億円規模の流動負債、固定負債合計を抱えている。したがって、買い手は、事業価値0+売却額2,000億円+そごう・西武の負債3000=5000億円規模の価値を百貨店事業以外の資産の中に見いださねば成立しないことになる。いま、成長戦略が見えず、次々と店舗閉鎖に追い込まれている百貨店のどこに5000億円の価値を見いだすのだろうか。