株価はしぶとく粘るが債券市場は大崩壊

「そろそろ本格調整か、そうでなければ大暴落か」と言われはじめてからもう3~4年経ちました。米株市場だけを見ていると、何度暴落の気配を示してもそのたびにしぶとく反発し、高水準を維持しています。

ただ、株式市場ほど派手な動きはしないのがふつうの債券市場のほうでは、すでにすさまじい暴落が始まっています。

2%超えさえむずかしかったインフレ率が急加速する条件は整った
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

LEGAMVUというなんとも覚えにくい略号の世界債券指数は、2021年7月末の約69.2兆ドルから直近の64.4兆ドルまで、半年強で4兆8000億ドル(約600兆円)を失っています。

世界の債券市場全体の時価総額は2021年年央で約120兆ドルでした。もし世界債券指数並みに下落しているとしたら、喪失した価値は8兆3000億ドルに達します。日本円にすれば1000兆円を超えてしまいます。

同じく2021年の年央に世界株式市場の時価総額は約38兆ドルで、債券市場の時価総額の32%に過ぎませんでした。債券市場での大暴落がいかに深刻な被害を金融業界にもたらすかがよくわかります。

債券暴落=金利急騰は住宅市場を直撃

この債券市場の大暴落は、すなわち金利が急上昇していることを意味します。債券価格の暴落とは、同じ金額の債券を買って得られる金利収入が増えるという現象ですから。

そして、金利高騰は確実に住宅市場を縮小に導きます。先進諸国の住宅市場でふつうの勤労者が長期ローンを組まずに家を購入することは不可能に近いからです。

アメリカの30年固定住宅ローン金利はご覧のとおり、すでに急騰過程に入っています。

2%超えさえむずかしかったインフレ率が急加速する条件は整った
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

2022年に入って住宅価格の上昇が急加速したので、「このまま待っていたら一生買いそびれるかもしれない」と思って、清水の舞台から飛び降りるつもりで家を買ってローンを組んでみたら3%台前半のはずが5%近い金利になっていた人は、泣くに泣けない心境でしょう。こうした住宅ローン金利急騰による悲劇が圧倒的に多く出そうなのが、アングロサクソン(旧大英帝国)系諸国です。

2%超えさえむずかしかったインフレ率が急加速する条件は整った
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

オーストラリア、カナダ、イギリス、アメリカの4ヵ国で、すさまじい価格上昇にもかかわらずなんとか購買層がついていけていたのは、長期金利が下落しつづけていたからです。

その長期金利が暴騰に転じたのですから、これら4ヵ国の住宅市場は壊滅的な打撃を受けるでしょう。

先進諸国の中央銀行がいっせいに金利引き上げに転ずる中、日銀のみが「円安は輸出産業に有利で、したがって日本経済全体にもプラスだ」という古めかしい経済観にしがみついて低金利政策を維持しているのは、まったく現実離れしています。

ただ、庶民の住宅取得のためにという視点から見れば、低金利維持政策は住宅価格の低迷と相まってけがの功名と言えるかもしれません。

米株市場のベテランが思考停止状態に

それにしても、どんなに悪材料が出ても、何日か下げると必ず反発する米株市場については、何十年も相場のまっただ中で激しい競争を生き抜いてきたベテランが「ここって誰、私ってどこ?」状態に陥っています。

2%超えさえむずかしかったインフレ率が急加速する条件は整った
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

もちろん、いつか強烈なしっぺ返しがやってくることは、十分承知しているはずです。でも、これだけ大暴落に直結してもおかしくない事件のたびに反発して新高値を取る展開が続くと、いったいいつ降りればいいのか、見当もつかないのではないでしょうか。ひとつだけ、確実に言えることがあります。

Fedが金利を上げつづけて軟着陸できた例はない

それは、連邦準備制度が何回かにわたって持続的に金利を引き上げると、必ず景気後退が起き、景気を冷やすことなく軟着陸できたためしはないという事実です。

2%超えさえむずかしかったインフレ率が急加速する条件は整った
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

今回の金利引き上げ過程では、前回の引き上げで大量生産してしまった実質金利がマイナスの金融資産や、営業利益で支払金利を賄えない企業の整理がまったくついていないまま、景気後退に突入することになります。

それだけ、景気後退は深刻となり、単なる後退ではなく大不況となることは間違いなさそうです。


編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。

文・増田 悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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