民法では、相続財産の一切を引き継がない「相続放棄」が認められています。では相続人全員が相続を放棄した場合、遺産は誰がどのように管理するのでしょうか?「限定承認」との違いや、相続手続きを行ううえでのポイントを解説します。

目次
相続放棄とは
 ・相続放棄は遺産を一切相続しないこと
 ・相続放棄の撤回はできる?
 ・相続放棄をしても受け取れるお金
 ・限定承認を選択することも可能
相続放棄をする目的とは
 ・相続放棄をして債務などのリスクを避ける
 ・相続放棄をして面倒な手続きや争いに関わらない

相続放棄とは

相続放棄で知っておきたい重要なポイント。遺産の放置はできない?
(画像=『RENOSYマガジン』より引用)

相続人は「被相続人の財産を引き継ぐか否か」が自分で選択できます。相続放棄を選択すれば、最初から「相続人ではないもの」として扱われるのです。相続放棄の定義や撤回の可否について確認しましょう。

相続放棄は遺産を一切相続しないこと

「相続放棄」とは、被相続人(亡くなった人)の財産を一切継承しないことです。すべての相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時」に、相続の承認または放棄の意思表示をする必要があります(民法915条)。

このとき放棄をした者は、最初から「相続人とならなかったもの」とみなされます(民法939条)。借金や保証債務などのマイナスの財産はもちろん、プラスの財産も引き継がれません。

相続の放棄に際し、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出するのが原則です。大まかな手順は以下の通りです。

  1. 財産調査をする
  2. 相続放棄申述書を家庭裁判所に提出する
  3. 家裁から届く「照会書」に回答をして返送する
  4. 家裁から受理通知書が郵送される

相続人は、相続の承認または放棄をする前に「相続財産の調査」を行えます。滞りなく調査を進め、期限内に申述書を提出しましょう。

出所:民法 | e-Gov法令検索

相続放棄の撤回はできる?

相続放棄申述書が裁判所に受理されると、相続放棄が成立します。一度受理された相続放棄は、撤回ができないと考えましょう。

ただし、民法919条には「第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認または放棄の取消しをすることを妨げない」との記載があり、取り消し事由に当てはまれば、取り消しが認められるケースもあるようです。

例えば、詐欺や強迫によって放棄をさせられた場合や、未成年が法定代理人の同意を得ない場合などは、取り消しが認められる可能性が高いでしょう。取り消しを希望する場合は、その旨を家庭裁判所に申述します。

出所:民法 | e-Gov法令検索

相続放棄をしても受け取れるお金

被相続人が生命保険に加入していた場合、相続放棄をしても生命保険金を受け取れるケースがあります。

被保険者(契約者)が夫、死亡保険金の受取人が妻である場合を例に挙げましょう。夫の保険金は、受取人である「妻の財産」です。夫が亡くなり、その妻が相続放棄をした場合でも、妻は保険金を受け取れます。

一方で、受取人が夫である場合、保険金は「夫の財産」です。妻が相続放棄をすれば、保険金は受け取れません。生命保険金の相続でもめないためにも、生前から「保険金の受取人を誰にするか」をしっかりと話し合っておくことが重要です。

限定承認を選択することも可能

「債務がどの程度あるかわからない」「不動産や土地を残したい」というケースでは、「限定承認」を選択するのが賢明でしょう。

限定承認とは、相続財産からマイナスの財産を清算する方法です。借金や未払金があれば相続財産で弁済を行い、プラスの財産が残れば相続人がそれを引き継ぎます。

相続放棄をすれば一切の財産が引き継げなくなりますが、限定承認では「相続人が相続した財産以上の負債を背負うリスクがない」「プラスの財産を引き継げる」というメリットを享受できるのです。

ただし、限定承認は相続人全員が共同で行わなければならず、誰かが拒否をすれば手続きは進められません(民法923条)。必要書類が多く、手続きに時間がかかる点にも注意が必要です。

出所:民法 | e-Gov法令検索

相続放棄をする目的とは

相続放棄で知っておきたい重要なポイント。遺産の放置はできない?
(画像=『RENOSYマガジン』より引用)

相続放棄をする目的は人によってさまざまですが、多くの人は「多額の債務を引き継ぎたくない」「無駄な相続争いを避けたい」などの理由です。相続をするべきか迷ったときは、相続で得られるメリット・デメリットを比較してみましょう。

相続放棄をして債務などのリスクを避ける

相続財産は必ずしもプラスの財産だけとは限りません。相続放棄をすると、「マイナスの財産」を引き継ぐリスクを回避できます。以下はマイナス財産の一例です。

  • 借入金(住宅ローン・自動車ローンなど)
  • 未払金(賃貸料・光熱費など)
  • 公租公課(所得税・固定資産税など)
  • 買掛金・前受金(被相続人が事業主である場合)
  • 連帯保証

被相続人が訴訟の被告人である場合、相続人が訴訟上の地位を受継する可能性があります。訴訟の結果によっては、多額の支払い義務が生じてしまうでしょう。債務や義務を肩代わりしたくない際に、放棄を選ぶケースが多いようです。

なお、限定承認でもマイナス財産の相続を防げるため、どちらを選択するのが最善か相続人全員で話し合いましょう。

相続放棄をして面倒な手続きや争いに関わらない

面倒な相続手続きや相続人同士での争いを避けるために、相続放棄を選択する人もいます。

相続をするには、相続人同士で遺産分割協議を行い、財産の分割方法について話し合うのが原則です。協議で合意が得られない場合、家庭裁判所による遺産分割調停を申し立てる必要があり、相続争いが泥沼化する恐れがあります。

相続にあたり、遺産調査・遺産分割協議書の作成・名義変更の手続き・相続税の申告などの手続きを経なければならず、多くの時間や労力が費やされるでしょう。

相続を放棄すれば、初めから「相続人ではないもの」として扱われるため、手続きや相続争いに関与せずに済みます。