●鬼はなぜ金棒を持っている? 

――ここから、代表的な妖怪の「住む条件」を伺っていきたいと思います。去年もっとも日本をにぎわせた妖怪といえば『鬼滅の刃』ブームによる「鬼」だったと思います。鬼の生活条件で一般的なものはありますか?

市川:洞窟や山は、人々が「鬼がいそうな場所」のイメージを思い描きがちな 場所という意味で、生活条件と言っていいかもしれません。

鬼の話は全国に伝承が残っているんですが、有名どころだと「酒吞童子」でしょうか。京都の山奥、今のJR福知山線の奥にある大江山に住んでいたとする伝承があります。

鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= 大江山にある鬼のモニュメント 、『宙畑』より引用)

――マンガやアニメでは最強クラスの妖怪として登場しがちですね。

市川:大江山へは行ったことがあるのですが、確かに不安を覚えるような山奥で、石や岩がたくさん転がっていました。

鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= 大江山の8合目「鬼嶽稲荷神社」から望む福知山盆地の雲海 、『宙畑』より引用)
鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= マーカーは鬼嶽稲荷神社の位置。大歩危小歩危とは違って、川をたどっては行けず、山の奥深くに登らなければたどり着けない場所にあるようです。 、『宙畑』より引用)

市川:また、鬼が登場する話として有名なもの といえば、やはり「桃太郎」でしょう。昔話というのは「昔々あるところに」と、基本的に場所との結びつきがぼかされていることが多いのですが、香川県高松市から瀬戸内海にちょっとした離れ小島として浮かぶ「女木島(めぎじま)」は、100年前ぐらいから「鬼ヶ島」のルーツの1つと呼ばれています。

鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= 女木島にある「鬼ヶ島大洞窟」の入り口 、『宙畑』より引用)

女木島では中央の峰の中腹に洞窟が見つかり、中には小さな部屋まで作られていました。海賊が使っていたのではないかと諸説はありますが、郷土史家が鬼ヶ島説を唱えたことで、現在は「鬼ヶ島大洞窟」として、桃太郎伝説が体験できる施設となっています。

このように、洞窟、岩間、山あたりが、鬼が身を隠して生活していそうな共通イメージに、あげられるでしょう。

――中が暗闇だと、ことさら何か怖い存在が潜んでいるんじゃないか想像してしまいますね。

市川:さらに文化的な話をすると、鬼は製鉄文化と強い結びつきがあるともいわれています。映画『もののけ姫』のたたら場をイメージするとわかりやすいですが、昔の製鉄集団の集落は都市部から離れたところにつくられる傾向にありました。

鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= 映画『もののけ姫』のたたら場でふいごを踏む場面(スタジオジブリ公式サイト「作品静止画」より) 、『宙畑』より引用)

人里離れ、ある特殊技能をもった集団……一般的な人間社会とは違う共同体といった意味合いで「鬼の集まり」と呼ばれた側面があったようです。もっとも、捉えようによっては差別的なニュアンスも含むため今では使われてはいませんが。

――ひょっとしてよく物語で鬼が金棒をもっているのって……。

市川:まさに、そうした製鉄技術のイメージから生み出されたものもあります。今回衛星データから鬼を探す際も、鉱物の取れる場所や、過去の製鉄所なども調べられると面白いかもしれません。

鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= 日本の鉄鉱山をTellus上にプロットした見た結果。ここに鬼の居場所があった……かも? 、『宙畑』より引用)

――次に『鬼滅の刃』では人の生き血を吸っていましたが鬼の食文化はどうなっているのでしょう?

市川:鬼は何を食べて生きていたか、直接的なデータはあまり残っていません。ただ、鬼が人を食べる姿を描いた絵画はあるので、生き血を吸って生きる鬼も、かけ離れたイメージではありません。福島県二本松市に残る「安達ケ原伝説」では、鬼婆が永遠の命を保つために妊婦の生き肝を食べていた、という伝承もあります。もちろん先ほどの酒呑童子はその名の通りお酒が好きなわけですが、人間以外のものを飲食する鬼もいますよ。

――なるほど、酒造りの地域を探すのも面白そうですね。先ほどの話では妖怪は、人の生活エリアと立ち寄らないエリアの境界に発生するとのことでした。鬼はどれくらい人里から離れたところに住んでいそうでしょうか。

市川:実は酒呑童子伝説が伝わる大江山に行ったとき、あまりにも京都と離れすぎていることに若干疑問があったんですよね。いま電車で行ってもけっこうな時間がかかるほどで、ここから都に行くのは大変だなと。

対して「鬼ヶ島」のモデルと言われる香川県の女木島は、高松市から目視できるちょうどよい距離感にあるんです(※Google Mapで直線距離約5キロ)。島というのはそれ自体が人間の世界と海で分断されているのもあるのですが、人が生活圏から認知できる距離としても程よく、衛星データから調べる際「鬼が発生しやすい距離」の参考になるかもしれません。

鬼、かっぱ……妖怪が現代日本でも暮らせるエリアを宇宙から探してみた(前編)
(画像= 高山市街から見える女木島 、『宙畑』より引用)

あとは岡山県岡山市には桃太郎伝説の発祥地として知られる「吉備津彦神社」があるんですが、その神社から10キロほど離れた山に、実際に鬼が出たとされる「鬼の釜」という場所があります。こちらも参考になるでしょう。