日米航空会社の直近の業績

下の表は、2021年11月26日時点で直近公表されている決算資料をもとに作成した、日米大手航空会社の業績比較である(表1)。

大赤字のJAL・ANAと黒字化したアメリカの航空会社、違いはどこにあるのか?(牧野 章吾)
(画像=表1 日米大手航空会社の業績比較(直近公表の決算資料をもとに筆者作成) ※1 UALはユナイテッド航空、AALはアメリカン航空 ※2 JAL、ANAは中間決算、UAL、AAL第三四半期決算、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

前述の通り、日系2社はコロナ不況で赤字に対して、米系2社は黒字転換に成功した。

国土が広いため国内線の需要が回復しやすいことや、米政府がいち早くロックダウンを解除したことなど追い風はあったが、経営をスリム化させた効果が大きい。

一般的に従業員削減はネガティブな印象を持たれる。業績悪化を社内外に発信していることを意味するため、業績改善の最終手段として採られる場合が多い。

しかし、早期に大規模人員削減を実施した米系航空会社は今では反対に採用を強化している。2021年8月デルタ航空は、来年夏の航空需要回復を見込んで客室乗務員1500人を採用する計画を発表した。

ユナイテッド航空は2021年1~9月で、2019年の年間実績を上回る1000人のパイロットを既に採用した。

2023年度入社の新規採用再開を発表したものの、今後も従業員を減らしていく姿勢を打ち出している日系航空会社とは対照的である。

JAL・ANAが業績を回復するために必要な「固定費」の削減

JALとANAが業績を回復するには、やはり人件費の大幅削減が重要だと考える。米航空会社の業績回復を成功モデルとして、取り入れられる部分を積極的に採用するべきだ。

JALもANAも新規採用の見送りや給料の減額を発表したものの、早期に従業員を解雇しない方針を打ち出している。

理由としては、国際線需要が回復した際に備えるためだとしている。確かに航空会社の業務は専門性が高く、早期に人員を確保することは難しいだろう。

しかし、日本人の海外旅行先として人気の東南アジアではコロナウイルスが落ち着いているとは言えず、自由に海外旅行ができる状況までまだ遠い。

加えて、コロナウイルスにより世界的にテレワークが浸透し、出張機会はコロナ以前と比較して激減している。出張が必要不可欠な職種もあるが、多くの企業は海外出張の必要性を以前よりは感じていないはずだ。ズームなどオンラインビジネスツールの需要拡大がその証拠でもある。

JALとANAが前提としている国際線需要は、徐々に回復はしてもコロナウイルス以前には戻らない可能性が高い。

航空会社のビジネスモデルはコロナ禍で同様に苦境にあるホテル等の宿泊施設に近い。どちらも固定費が高く、わずかな売上の下落でも赤字に転落しやすい。損益分岐点を下げて黒字化を実現するには固定費を減らす、つまり人件費のカットが必要となる。

両社が打ち出している雇用維持は良心的に見えて政府の補助金や従業員の出向政策を頼みの綱とした延命措置に過ぎない。

会社はステークホルダーのためにも、そして業績の早期回復のためにも厳しい経営判断を下すべきだろう。アメリカの事例を見ても、結果的にそれが早期の雇用回復につながることは言うまでもない。