パラグアイの空気にイライラしてしまった
少年B:
でも、いきなり海外にアルパを学びに留学に行くなんて、ご家族は反対しませんでしたか?
ネルソン:
父はむしろ僕以上に大喜びでしたし、母も「いいじゃん」って感じで、背中を押してくれましたね。

少年B:
向こうでの生活はどんな感じだったんですか?
ネルソン:
時間がゆっくり流れていくような感覚はありましたね。時間にルーズなところに、ちょっと腹立たしく感じてしまったり。
少年B:
ああー、海外だとそういう話はよく聞きますよね。先生もけっこうのんびりだったりするんですか?
ネルソン:
そうですね、「今日はこれ練習して、終わったらサッカーを観に行こう!」とか。
少年B:
いわゆる、日本の「弟子入り」とはちょっと違った感じですね。

ネルソン:
そんな感じに振り回されて、最初は僕もちょっとイライラしてしまったり、モチベーションが下がってしまったり……。
でも、途中で「自分が焦ってしまっているな」と気付いたんですよね。周りでゆっくり時間が流れているんだから、それに合わせようと思って。
少年B:
身をゆだねるというか……。
ネルソン:
はい。周りに合わせていくと、自分もゆったりして、気持ちにも余裕ができるし、余裕ができるとその場に合わせて臨機応変に対応できるようになるので。あと、たしかに長い時間の練習も大事なんですけど、集中力が何よりも大事なんだなと。そういう切り替えみたいなものを学びましたね。
そこに気付いてからは、モチベーションが上がっていったし、実力もついて、どんどん本気になっていった感じですね。
アルパを武器に大学合格
少年B:
そして、留学から帰ってきてからはどうしたんですか?
ネルソン:
やっぱり大学は出ておきたいと思ったので、入試を受けました。でも、僕は正直頭がそんなによくないので、AO入試を活用しようと思ったんです。

ネルソン:
このころにはアルパの演奏をしてお金をいただくこともあったので、「プロのアルパ奏者です」とアピールをして、アルパで入学したようなものでしたね。
少年B:
大学もアルパで入ったんですか!
ネルソン:
はい。ゼミも吉岡しげ美さんというピアノの弾き語りをされている先生のところに入りました。専攻は福祉マネジメントなんですが、音楽を活用して社会の福祉に役立てるという内容だったので、それならアルパの経験が生きるんじゃないかと思ったんです。
そこで、介護福祉施設での演奏や、東北震災などへのチャリティー音楽活動など、幅広い活動をさせていただくことができました。

少年B:
では、活動の幅が広がったのは主に大学時代ということになりますか?
ネルソン:
そうですね。いろんなところに「こういう楽器をやってます」と、メールしたり、電話したり、必死に営業していきました。
ただ、当時はいま以上に世間知らずだったので、アポを取らずに飛び込みで営業して、迷惑をかけてしまうことも多かったです。そんななかでも、すごく優しくしてくれる人との出会いもあり、活動の幅が広がっていきました。

少年B:
出会いというのはどのような?
ネルソン:
たとえば、路上で演奏をしてても、みんな通り過ぎちゃうわけです。そこで「もっと人がいるところでやろう」とか思い始めて。
いま考えたらありえないんですけど、大きな商業施設の中庭みたいなところで勝手に演奏をしたんですよ。
少年B:
あっ、それはちょっとマズいやつでは……?
ネルソン:
そうなんですよね。監視カメラで見てた支配人さんがすぐに飛んできて。普通怒られるところじゃないですか。そんなの。
少年B:
なんだなんだ!?ってなりますよね。

ネルソン:
でも「勝手にやるのはダメだけど、おもしろいことするね、君」って、名刺とクリームパンをくれたんですよ。あれは忘れられないですね。
それから、その施設に演奏で呼んでもらったり、はじめてコンサートもその商業施設のホールでやらせてもらったり……。支配人さんにすごくよくしていただきましたね。いまでもそこの商業施設にはお世話になっています。
少年B:
そんなことあります!?
ネルソン:
そうやって、徐々に口コミや紹介で認知されていった感じですね。珍しい楽器なので、目立つという意味ではよかったかもしれません。