「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。

そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチでオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。

今回お話をお伺いしたのは、パラグアイの伝統楽器・アルパの奏者として活躍するネルソン鈴木さん。挑戦することの大切さや、ニッチな分野で生きていく術について教えてもらいました。

パラグアイのハープ「アルパ」ってどんな楽器?

少年B:
はじめまして! さっそくなんですが、ネルソンさんが弾いてらっしゃるアルパというのはどんな楽器なんですか? 見た目はハープにかなり似ているようですが……。

ネルソン:
アルパというのは、スペイン語でハープのことです。でも、ただ呼び方が違うというわけではなくて、ハープとは構造自体が違うんです。

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

少年B:
えっ、いわゆるハープとは構造が違うんですか!

ネルソン:
はい。木や弦の材質も違うし、弾き方も違う。ハープとは全くの別物ですね。

かつて宣教師たちが南米に来たとき、西洋の楽器であるハープも一緒に広まったんですが、当時スペイン領だったパラグアイの人たちが独自に改良をしてアルパが生まれたとされています。中南米では非常にポピュラーな楽器で、パラグアイのほか、メキシコ・ベネズエラ・ペルーなどでも演奏されているんですよ。

少年B:
へぇぇ、独自の進化を遂げたんですね!

ネルソン:
はい。ハープは指の腹で演奏するのですが、アルパの場合は指の腹のほかに爪でも演奏するんです。お琴みたいな指の使いかた、と言えば伝わるかな?

爪で演奏することで、独特のキラキラしたような音が出るんです。気持ちがちょっと明るくなるような、踊りたくなるような。それでいて、繊細な弾き方もできるのがアルパのいいところです。

少年B:
ハープとは弦の素材も違うんですか?

ネルソン:
ハープの弦はテニスラケットなどでも使われている「ガット」なんですよ。一方、アルパは「ナイロン」なので、弦がすごく柔らかいんですね。

少年B:
弦に色がついているのも不思議ですね。

ネルソン:
青がド、赤がファというふうに、スケールがわかりやすくなっているんです。初心者でも、「かえるのうた」とかなら簡単に弾けると思いますよ。

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
▲一部の弦には色がついており、スケールがわかりやすくなっている(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

ネルソン:
あとはハープとの比較でいうと、重量の違いが挙げられます。ハープは50kgぐらいあるので、座っての演奏が基本なんですが、アルパはこれで12kgぐらいなんです。楽器の底に付いている足を伸ばせば、立って演奏もできるんですよ。

少年B:
立つとか座るとか、演奏スタイルは人によって違うんですか?

ネルソン:
おおまかに言うと男性は立って、女性は座って演奏する人が多いですね。もちろん人によっても違うので、女性で立って演奏する人もいますけど。アルパは日本だと女性の奏者さんが多いですが、パラグアイでは男性のほうが多くて、パワフルで情熱的な演奏をします。

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
▲アルパの足を伸ばした状(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

少年B:
なるほど、演奏スタイルも人それぞれで奥が深い……!

ネルソン:
ですね。日本ではあまり馴染みがない楽器かもしれませんが、じつは『全日本アルパコンクール』という大会も2年に1度、千葉市で開催されているんですよ。

少年B:
調べてみたら、千葉市がパラグアイの首都・アスンシオン市と姉妹都市という縁で始まったコンクールだそうですね。ネルソンさんも参加されているとか。

ネルソン:
はい。ありがたいことに2020年の第12回全日本アルパコンクールではグランプリを受賞させていただきました。

少年B:
アルパの日本チャンピオンが取材を受けてくれるの、すごすぎますね……!

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
▲第12回全日本アルパコンクール2020の結果(出典:千葉市ホームページ)(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

アルパ、そして師匠と出会い

少年B:
ネルソンさんはプロのアルパ奏者ですが、収入源はどのような感じですか?

ネルソン:
クルーズ船やブライダル、小学校やお寺などでの演奏がメインです。Uber Eatsとかアルバイトもしつつ、あくまで本業はアルパといった感じですね。というのも、月収の差がすごいんですよ。

たとえばコンサートをすればそれなりの収益が見込めますし、演奏の依頼が多い月だと月収100万円を超えることもありますが、逆にほとんど仕事がないときもあります。

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)
「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
▲コンサートのほか、バレエとのコラボなど活動は多岐にわたる(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

少年B:
なるほど……。

ネルソン:
なので、僕の場合は家賃などの固定費はバイトで稼いで、「アルパで稼いだお金はアルパに投資する」というように決めています。

少年B:
では、そんなネルソンさんがアルパと出会ったきっかけについて教えてください。

ネルソン:
僕は埼玉県の川口市出身で、父がパラグアイ人なんですが、小学校の2年生までは日本とパラグアイを頻繁に往復していたんです。

車の中でアルパの曲が流れてたり、僕の誕生日にプロのアルパ奏者が演奏しにきてくれたりしたこともあって、小さい頃から「アルパを触ってみたいな」という気持ちがありました。

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

少年B:
初めてアルパを習ったのはいくつのころだったんですか?

ネルソン:
高校生の頃ですね。お父さんがアルパを買ってくれたんです。先生が月1回自宅に来るというレッスンつきで。僕はちょっとした趣味ぐらいの気持ちだったんですが、お父さんが本気になってしまって(笑)

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

少年B:
そのころはプロになるなんて考えていなかったんですね。本気になったきっかけは何だったんですか?

ネルソン:
先ほど、全日本アルパコンクールでグランプリを取った話をさせていただいたんですが、じつは3度目の挑戦だったんですね。

初めて参加したのは2011年。アルパを習い始めて3年目のことでした。そこで、審査員としてパラグアイ・アルパ協会会長のマルセロ・ロハスという人がパラグアイから来日されていたんです。

「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
▲パラグアイ・アルパ協会会長のマルセロ・ロハス氏(出典:日本パラグアイ協会公式ホームページ)(画像=『Workship MAGAZINE』より 引用)

ネルソン:
そしたらそこでマルセロから「君、本場で学んでみないか?」と誘われまして。

少年B:
グランプリは取れなくても、何か感じるものがあったんですかね。ご自分では何がよかったと思いますか?

ネルソン:
全然わかんないです。日本は女性の奏者が圧倒的に多いので、数少ない若い男性として目立っていたからでしょうか。まだ高校生だったので、伸びしろに期待してもらったのかもしれません。

そこで、高校を卒業してから1年間、留学費用を貯めるために働いて、20歳になる年にパラグアイに留学し、1年間マルセロのもとで学びました。そこで初めて本気になったような感じでしたね。